重工はBoeingの夢を見るか

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就活の話題を一旦置いて、前回調べた日本の航空機産業について考えたので書いてみることにする。日本の5大航空機メーカーの売上、利益はこの前書いた通り次のようだった。そしてこれは、海外の航空機メーカーに比べてあまりに小さい、ということを書いた。

社名 売上高(億円) 営業利益(億円)
2007
年度
2008
年度
2009
年度
2007
年度
2008
年度
2009
年度
三菱重工業 32031 33757 29409 1360 1059 657
富士重工業 15723 14458 14287 457 -580 276
川崎重工業 15010 13386 11735 769 287 -13
新明和工業 1390 1278 1104 50 10 31

5大メーカーのうち、日本飛行機は川崎重工の子会社なので川崎重工に含んでいる。この数字は比較的大きく、小さいと言っても海外の航空機メーカーにそんなに劣っていないのではないか、と思うかもしれない。前の日記にも書いたけれど、海外の大きな航空機メーカー(エアフレーム)は次のような売上、利益である。

社名 売上高(億円) 営業利益(億円)
2007
年度
2008
年度
2009
年度
2007
年度
2008
年度
2009
年度
Boeing(US) 59748 54818 61453 5343 3555 1886
EADS:Airbus, Eurocopter 43818 48457 43818 1620 4972 1961
Lockheed Martin(US) 37676 38458 40670 3892 4358 4019
Northlop Grumman(US) 28816 30498 30380 2705 100 2235
BAE Systems(UK) 20423 24105 29140 1884 2466 2886
Finmeccanica(Italy) 17457 19548 23628 1422 1573 1809
Raytheon(US) 19171 20857 22393 2095 2336 2738
Bombardier(Canada) 15818 21815 18571 2337 4062 3034
Textron:Bell, Cessna(US) 11903 12609 9450 1635 955 94
Embraer(Brazil) 4721 5702 4861 337 483 302

ここで、注意して見たいのは日本の航空宇宙産業に関わっているメーカーは「重工」という単位であるということである。重工という会社はBtoBのハードウェアを作るという仕事ならなんでもやっているような会社であり、航空分野が大きな割合を占めているわけではない。もちろん海外のメーカーも航空のみならず、防衛産業に関して航空以外でも売上は多いという特徴はあるが、日本では特にそれが顕著である。なので、重工の中で航空宇宙セグメントのみを取り出して考えることにする*1

社名 売上高(億円) 営業利益(億円) 従業員数(人)
2007
年度
2008
年度
2007
年度
2008
年度
2007
年度
2008
年度
三菱重工業 5006 5123 147 -103 8724 9231
川崎重工業 2373 2004 108 -41 5258 5260
富士重工業 997 809 44 16 2235 2289
新明和工業 286 246 9 -5 784 734

ここで注意したいのは、三菱重工における航空宇宙セグメントは、ミサイル・エンジンが含まれているのに対し、川崎重工の航空宇宙セグメントにはエンジンが含まれていない。具体的に言うと、三菱重工の場合は名航・名誘を足した額であり、本来その割合は3:2程度であると考えられる。川崎重工の場合は、岐阜(航空宇宙)のみであり、明石(ガスタービン)で生産される航空機用エンジンは含まれていない。もし純粋に航空機メーカーとして考えるならば、エンジンを抜いて考えるべきであると考えられる。

これを見ると、2008年に一気に景気悪くなったんだなーというのが分かる。あと、全体的な利益率の低さと、一人当たりの利益の少なさ。みんなずっと勉強して会社入ってからも勉強して頑張って設計して製造して売ってるのに、1人あたり年間200万円弱くらいしか利益出せてない。目を覆いたくなるような利益率である。なんだか哀しくもなってくる。普通の製造業ではこの10倍から100倍くらいの利益を1人あたり生み出していてもおかしくない。

この原因は何なのかな、と考えてみる。理由は、

  • 戦後、官需(防衛)で成り立ってきた日本の航空機産業には対外的な競争力が必要なかったため、非常に非効率かつチャレンジしないという状況が続いてきたこと
  • Boeingの下請けが多く、利益が確保できない構造になっている
  • 重工という業態では航空機でもうけなくても別に良かった

というようなことなのかな、という気がする。どこの国でも多かれ少なかれ航空機メーカーは防衛向けビジネスが占める割合は多いし、それなくして自由に競争、というところで勝つというのも実は難しいとは思う。しかし日本の場合はそれが顕著すぎたのかなという気がする。

アメリカでは、今でも航空機メーカーがいくつかあるけれど、それも戦後M&Aを繰り返していくつかの会社にまとまったもの。カナダではボンバルディア、イギリスではBAEシステムズ、ヨーロッパ全体としてEADS、イタリアのフィンメカニカ、ブラジルのボンバルディアなど競争を勝ち抜いていくために1国1社程度にまとまっているという気がする。その結果、ある程度の競争力を持っていると思う。

戦後、日本の航空産業を支えてきた官需は現在どんどん減ってきている。防衛費はどう考えてもこれから増えていくとは思えない。そのため、各社は大きな転換期を迎えている。すでにここ20年くらいで産業構造は変化し、Boeingの下請けという形ながらも民間機での売上が全体の半分以上になるようになってきている。しかしやはりそこでは自立できるほどの売上・利益は生み出せない。

そこで、日本の航空機メーカーが全部合併してみたらどうか、と考えてみた。形として不採算部門の売却でも何でもいいけれど、とにかくくっつくことで採算が取れるような業態に変わることができないか、という考えである。思えば、各社得意なものが、

  • 三菱重工:戦闘機、小型機
  • 川崎重工:中型機、輸送機
  • 富士重工:中央翼、無人機
  • 新明和:水上機

とよく言われる気がする。実際に違いがあるのかよく分からないけれど、とりあえず全部足してみるとどの程度の規模の会社になるのかを考えて見る。三菱のみ航空宇宙部門の大きさに先ほどの理由より2/3倍して計算する。

社名 売上高(億円) 営業利益(億円) 従業員数(人)
2007
年度
2008
年度
2007
年度
2008
年度
2007
年度
2008
年度
三菱川崎富士新明和航空機(仮) 6660 6132 249 -92 13511 13821

名前が長すぎて冗長だなあ。しかしとりあえずこのくらいの規模になることが分かった。航空機のみでは売上が7000億弱程度、従業員13000人程度の会社になることが分かる。各社のエンジン部門やIHIを足すと全体として売上が1兆円程度になると思われる。この規模を考えると大きいような気もするがそうでもない。民間機のみなら現在で割合が50%と仮定すると、3500億円程度、つまりPwCが調べた民間旅客機市場の売り上げランキングでは*2

社名 売上高(億円)
2006
年度
2007
年度
Boeing 28465 33386
Airbus 29876 32684
Bombardier 8296 9713
Cessna 4156 5000
Gulfstream 4116 4828
Embraer 2935 4215
Hawker Beechcraft 3095 3464
Dassault Aviation 2045 2577

となっているので、プライムで航空機を作って頑張ればエンブラエルのちょっと下からダッソーよりちょっと上くらいの位置を占めることができる。この位置は客観的に見るとかなり厳しい気がして、なんとかエンブラエルくらいまで頑張れば市場に残れるかもしれない・・という感じだろうか。未来を考えると、やはり防衛向けが減っていく中、航空機産業として自立するためにはこうなっていかないと残っていかないかな、という思いがする。

Boeing、Airbusは100人以上のクラスの飛行機を作っている会社だけれど、Embraer・Bombardierは100人以下のクラスの飛行機の会社、そしてCessna、Gulfstream、Hawker、Dassaultは小型飛行機の会社だっていうところが違うところではある。

合併のメリット、デメリットは、

  • メリット
    • 規模が大きくなることで、プライムとして航空機を開発できるようになる
    • バックオフィスや同じことをやっている部署を統廃合できる
    • 防衛向けがなくなってもなんとか自立できるかもしれない
    • 国内での仕事の奪い合いがなくなる(独占禁止法はどうなんだろう)
  • デメリット
    • 文化の違いを変えることができるかが分からない
    • 他社から見ると大きくなるため、競合する機種などで特に下請けが減る可能性がある
    • 合併したところでそれほどの規模にはなれない
    • 重工から切り離されるため、売上・利益の悪化が即倒産につながる危険性が増える

というところだろうか。実際のところを考えると、あまりこういう風になる未来はないんじゃないかなという気がする。今のところ利益率はかなり低く国際的にも競争できるような産業ではないものの、「何とかなっている」から。これが将来的にどう変わっていくのかというのを非常に危惧しつつ、一方では期待している。あと、若輩者が書いたものなので、disり歓迎します。

*今回もフォーマットをhttp://d.hatena.ne.jp/gothedistance/20100521/1274410669#にインスパイアされて使いました。id:gothedistanceさん勝手に使って申し訳ないです。

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コメント

  1. gothedistance より:

    フォーマットのご利用はご自由にどうぞ!
    航空業界も公共需要の減少に伴い淘汰と合併の流れが加速していくのでしょう。僕のIT業界も、これからそういうフェーズを迎えそうです。

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