MRJは美しい夢を見るか

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いま、日本で作られている旅客機MRJ。この旅客機に関する思いは個人的にはかなり強いものがあるのだけれど、世界は俺が思っていようと思ってなかろうと決まっていく。ただ待っているだけで人生を終えたくないので、MRJにまつわるストラテジについて考えてみる。もしかしたら生かせるかもしれないし。未来は作っていくもの。

ということで、基本的な競合機を並べて比較してみた。70席+のクラスと、90席+のクラスで世界のすでにある競合機種、これから作られるである競合機種について主な性能と状況を調べてみた。データ*1とデータ*2から調べて書いているけれど、タイポ含めて間違っているかもしれないし数字は絶対ではない。

f:id:salamann:20100625031312p:image

ジェット機の運航機材構成予測*3

上の表を見ると、航空需要は右肩上がりでこの波に乗っていればなんとかなる気もする。しかしよく見てみると、需要が大きいのはBoeing/Airbusの寡占市場である120席以上のクラス。特に120-180まで、今の機材ではA320、B737NGの需要が非常に大きい。この市場はこの市場で、次の機体は何か、と言われていたりするけれどそれは別の話。

MRJは現在のところ、70と90がある。Trans Statesの要望に沿って、100席クラスを作るという話もある。このクラスは非常に激戦区で、多くの会社が競っているマーケットである。ターボプロップの市場を減らして少し増える予想だけれど、それでも厳しいところである。ボンバルディアはこの市場から抜け出してB737NGクラスに行くためにCSeriesを作っている。Comacも国際的な競争力があるかは分からないものの、上へいくためのC919を開発している。これらはBoeing/Airbusのドル箱マーケットと競争になる。

マイケル・ポーターによる「5つの力」という、ある市場がどうなっているかを考えることで、業界の利益性、その中での戦略を決めるというモデルを考えてみる。5つの力は、以下のようなものなので、それぞれ考えてみる。

  • 新規参入企業の驚異(New Entrants)

このクラスでは大型機より新規参入の機会は多い。そのため、現在リージョナルジェットを開発している企業が多くなっている。ただし、今後さらに新規参入企業があるとは考えにくい。今リージョナルジェットを作っている企業のうち、三菱航空機は下請けから上へ、ボンバルディアはビジネスジェットからリージョナルジェットへ、エンブラエルはすべて新設計で狙って、Comacは中国による国をあげての新規参入、スホイもメジャーなのは戦闘機なのでリージョナルジェットは新規参入。これだけ新規参入が多いので、今後10年くらい新たに入るには障壁になっていると思う。

また、耐空性を審査して型式証明を得るという規制があり、さらに設計・開発段階では必ずキャッシュフローに悪影響を及ぼすので、資本がある企業が強いというのも新規参入を妨げる要因である。ただし、国による補助がある場合が多く、その条件を緩和していることも競争を激化させている原因であると思う。しかし今後このクラスに入ってくる可能性のあるメーカーは、それほど多くないのではないかと思う。インドやGAクラスの飛行機メーカーからかもしれないが、あまりありそうにない。

  • 売り手の交渉力(Suppliers)

サプライヤの力がどうなるか、ということ。航空機メーカーはインテグレーション担当なので、多くのサプライヤがある。アビオニクス、エンジン、アクチュエータ、脚など様々な装備品がある。これらのメーカーとどちらが交渉力があるかと考えると、それぞれの装備品メーカーがそれほど数があるわけでもなく、また特殊なものを作っているので発言力があるものの、今まではそれほど大きな発言力でもなかった。しかし、マーケットの航空機メーカー(エアフレームメーカー)が増えるとサプライヤの発言力が上がる可能性がある。

  • 買い手の交渉力(Buyers)

リージョナルジェットを買う側のエアライン側の交渉力のことである。これは間違いなく強くなっている。今までならボンバルディアとエンブラエルしか選択肢がなかったのに、これからは選択肢が増える。交渉して値切って、その会社から買わなくてもそれほど短期的に問題があるわけではないから。長期的にこの競争が続くとは思えないので、長期的にはどこを選ぶかということは大きなファクタになりそうだけれど。ということで、エアラインの交渉力は上がり、メーカーの交渉力は下がる。

  • 代替品の驚異(Substitutes)

この代替品とは、マーケットの外からという意味である。他のクラスの航空機、もしくは航空機以外の交通手段を指す。リージョナルジェットの上のクラスは、B737-500/600やA319、CSeriesのクラス、さらにその上はB737-700/800やA320クラス。リージョナルジェットの下はジェット機ではERJ、CRJの小さなクラスやターボプロップ機などがあげられる。リージョナルジェットはターボプロップ機のマーケットを食って行くので、この点ではよいかもしれない。経済性を考えると少し上のクラスが強くなってくるかもしれないが、それほど変わらないのかなと思う。

  • 業界内の既存の競合(Exsisting Competition)

これが一番驚異だと思う。三菱航空機、ボンバルディア、エンブラエル、Comac、スホイ、アントノフ・・など。100席オーバーのクラスも考えればBoeing/Airbusの機体も競争に入ってくる。現にANAのMRJはB737-500の代替になっていうのではないかという気がする。どう考えても競争が激しすぎるので、この5-8社くらいのうち、半分くらいはこれから10年くらいで撤退するのではないかと思う。

またエアフレームメーカーは利益率が低く、インテグレータなので差別化がしにくいという点が大きい。下の表でも出てくるが、エンジンで言えば今までではGEのCF34を使っているケースが多い。そしてMRJで採用されたPurePower(GTF)エンジンは低燃費という点でMRJそのものの一番大きなセールスポイントになっているが、これもCSeriesやIrkut MS-21にも採用される予定であり、エアフレームメーカーのセールスポイントとしては弱い。

このように考え、10年後などの未来にどうなっているかを考えるとなかなか厳しいマーケットに参入したものだ、と思う。この前発表されたローンチカスタマーのANA向けへのMRJ90の15機の合計額が692億らしい。1機あたり46.1億。ライバル機の価格はCRJ-900が25.2億円、E-190が27.9億円、SSJ100-95は21.6億という噂なので、ずいぶん高い。運行の経済性で打ち勝てるかどうか。採算ラインは350機、という噂もある。今のバックオーダーは確定で65機。

ということでスペックを見てみる。

  • 競合機

スペック 70席サイズ
MRJ70 E-170
/175
CRJ700
/705
SSJ100-75 ARJ21-700 An-148
メーカー Mitsubishi
Aircraft
Embraer Bombardier Sukhoi Comac Antonov
日本 ブラジル カナダ ロシア 中国 ウクライナ
初飛行
(予定)
2015? 2002
/2004
1999 2007 2008 2004
EIS 2016? 2004
/2005
2001 2008 2010 2009
座席数 70-80 70-78
/78-86
70
/75
68-83 78-90 68-80
全長
ft
107.6 98.1
/103.11
106.8
/119.4
86.9 109.9 112.7
全高
ft
32.8 32.4 24.1 33.9 27.8 28.2
スパン
ft
101.4 85.4 76.3
/81.6
91.2 89.6 94.8
巡航速度
Mach
0.78 0.82 0.78 0.78 0.82 0.80
エンジン型式 PW1217G GE
CF34-8E
GE
CF34-8C1
/8C5
PowerJet
SaM146
GE
CF34-10A
Progress
D-436
エンジン推力
lbf
15000 13800 12670
/13123
13500 17057 15058
航続距離
(旅客満載)
nm
800 1800
/2100
1434
/2002
1800
/2830
1200
/2000
1300
/2700
最大離陸重量
lb
81200 79344
/85517
77000
/84500
85600
/93200
89000
/96000
85000
/96000
離陸距離
ft
4560 6700 6072
/6377
4970 5600
/6200
5120
/6184
オーダー
(オプション)
0
(0)
325
(226)
351
(231)
0
(0)
92
(70)
221
(?)

            

スペック 90席サイズ
MRJ90 E-190/195 CRJ900/1000 SSJ100-95 ARJ21-900 CS100/300
メーカー Mitsubishi
Aircraft
Embraer Bombardier Sukhoi Comac Bombardier
日本 ブラジル カナダ ロシア 中国 ブラジル
初飛行
(予定)
2012 2004 2001 2009 ? 2012?
EIS 2014 2005
/2006
2003 2010 ? 20013/2014
座席数 86-96 98-106
/108-118
86-90
/100
86-103 98-105 100-125
/120-145
全長
ft
117.5 118.11
/126.10
119.4
/128.4
98.3 119.3 115
全高
ft
32.8 34.7 24.1
/24.6
33.9 27.8 38
スパン
ft
101.4 94.3 85.4
/85.10
91.2 89.6 115
巡航速度
Mach
0.78 0.82 0.80
/0.78
0.78 0.82 0.78
エンジン型式 PW1217G GE
CF34-10E
GE
CF34-8C5
/8C5A1
PowerJet
SaM146
GE
CF34-10A
PW1500G
エンジン推力
lbf
17000 18500 13123
/13630
15400 18500 21000
/23000
航続距離
(旅客満載)
nm
870
/1400
/1770
1800
/2400
1345
/1535
1830
/2750
1200
/1800
2200
/2950
最大離陸重量
lb
87300
/91400
/94400
105358
/115279
84500
/91800
85600
/93200
96160
/104024
121100
/139100
離陸距離
ft
47901
/5220
/5540
6700 6377
/6820
5033
/5915
5740
/6400
4951
/6200
オーダー
(オプション)
15
(10)
550
(453)
300
(223)
122
(63)
0
(0)
90
(70)

見てみる。ほぼ同じような形の飛行機が、ほぼ同じようなエンジンを積んでいることがわかる。空力性能や構造などでそれほどの優位性を見いだすのは難しいと思うし(MRJは当初複合材主翼の予定だったが今はメリットが少ないと言うことでメタルになっている)、乗せるアビオニクスなどもほぼ同じようなメーカーのもの。エンジンはGTFが使えたことで有利にはなるだろうけれど、それがどれだけ効いてくるのだろうか、と思う。

Trans Statesのオーダーが確定していない(MRJ100?などの100席クラスという噂も)ので載せていないので、オーダーだけ見るとMRJがものすごく出遅れているようにも見える。納入が遅いのでという言い訳もできるけれど、やっぱりこのままだと寂しい。月産3機を作れるようになるらしいので、もちろん初めから月産3機とは行かないだろうけれど、そのペースなら今の15機は5ヶ月で作り終えてしまう。

既存機が飛んでいるわけでもないし、勝てる戦略を考えるとなかなか難しい。原油がものすごく高くなればエンジンで勝てるかな、と思うけれど戦略じゃなくてそれは運。あとはカスタマーサービスをどうよくしていくか、というところが最大に重要になってくる気もする。あとはストレッチさせてより大きなクラスの需要が大きいところを狙って行くか。ただしそうして競争すると現在下請けしているBoeingのお仕事がなくなる可能性が結構ある気がする。

今回調べるにあたって、それぞれの飛行機のサプライヤも全部調べてみた。けれどそれをまとめるにはちょっと膨大になりすぎることが判明したので、それはまたいつかにとって置こうかなと思う。まだまだ書けてないところいっぱいあるし、間違ったデータを載せてる可能性もあるけれど、とりあえずちょっとずつ書き足していこうと思う。

*1:英語版wikipedia

*2:JADC http://www.jadc.or.jp/

*3:JADC http://www.jadc.or.jp/

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