MJ!

さて今日は起きてみると11:00くらいで、それから朝ごはんを食べてうだうだしていたら14:00ちょっと前になったので、いそいそと学校と反対方向に自転車を走らせた。本当はもうこの時間は本来なら憲法のラスト授業なのだけれど、友達に問題を聞くことにして。多少道に迷ったけれど、東京ドームの脇から坂道をのぼり本郷通りへ。

そして東大に到着。場所はあいまいにしか覚えていなかったので、赤門の側の透明なやつかと思っていたら違って、もう少し向こうのほうだった。入り口で名前を書いて入る。最初は大して混んでいなかったけれど、始まるころの時間には大量に入ってきて、立ち見続出の事態となった。多分これは俺とかあんま関係ないやつが来たからだろうw。正式名称、国産旅客機開発セミナー「きっとまた、日本の翼は大空に還ってくる」。

ぶれてるけど、終わったあとに撮った写真。

最初は一人一人講演。その前にこの企画がどうやって決まったかの話があった。航空宇宙じゃなくて環境海洋の修士の人が計画して、それを航空宇宙の鈴木真二教授に相談して決まったらしい。なんでそんなことを計画したかっていうと、単に飛行機好きだったようだ。それから工学研究科の副なんとかって人が話した。その人も航空宇宙じゃない(電子とかだった気がする)けど、単に飛行機好きなようだ。

1人目は経済産業省の笠間太介氏。航空機産業は今後も年4%程度の成長が見込め、他の市場に比べて伸びるということ、さらに経済産業省は支えていきますと言う話。それでもやっぱり日本の重工は小さな会社で、4大重工メーカー合わせても世界の飛行機メーカーに比べればはるかに小さいと言う。しかしそこでいつまでもボーイングの下請けばっかりやってられないということでYS以来のプロジェクトであるMJ(経済産業省主導で三菱重工業が開発している環境適応型高性能小型航空機の仮称。Mitsubishi jetの略)の話。具体的には今年に本当に作るかどうかを決めて、平成23年初飛行、平成24年に市場投入という話。さらに、P-X、C-Xの民間展開の話。この人は自分が心からやりたいんだ!ってことを言ってて非常に好印象かついいなと思った。やるとなったら腹をくくってやるので、YSの時みたいに逃げたりしないと言っておられた。ちなみに役所に勤めているけど、東大理院(物理)出身らしい。

2人目は三菱重工の中浜啓輔氏。東大院(航空)出身。名航で実際に作ってる。みんな気になってるけどなかなかニュースとかメディアへの発表が少ないMJの具体的な開発状況について。今までMHIではボーイングの下請け(B787では割合は上がっているが)だったのを、MJ投入。このクラスは20年間で世界で5200機の需要が見込めると言う話。具体的なライバルはボンバルディアCRJ700/900とエンブラエルEMB170/190。燃費や騒音の点で技術的にははるかに勝てる。CFDと有限要素法で優れた翼型をつくり、エンジンを開発(まーこれはロールスロイスかGEらしいが)。ウイングレットはついてる。風洞実験は3回やった。垂直尾翼の実物大作ったり、シートのモックアップ作ったり。やっぱ今年にATOがあって、それを通れば本格GO!と。この人も非常に熱くていい人。

3人目はJAXAの今村太郎氏。東大院(航空・博士)出身。JAXAとMHIの協力状況について。実際にCFDで騒音を減らす研究をしてたり、離発着時の全機まわりの流れの解析、フラッターの解析、スラットの研究、またオープンループの制御、着水・胴体着陸時の実験とか。楽しそうな研究。

4人目はJADCの馬場さん。マーケティングについて。日航製の最後の新入社員だったらしい。ここ10年の劇的なリージョナルエアラインのジェット化について。それからいろんな説明があったが、良くあるリスクの説明。日本がなぜYS以来、技術力はあるのに作れなかったか。これは、よく言われている点を指摘していた。つまり、

  • ローンチまで少なくとも4年かかり、実際に行った投資を回収するのにうまくいっても15年くらいはかかるので、それに対するリスク(その間に会社が持つかどうか)
  • 国内市場だけに売っても絶対に赤字。
  • 世界の市場に売るとなると、他の競合他社より優れていなければならないこと。
  • 新しいエンジンによる燃費向上・騒音低下実現しても、そのエンジンを積めば同じようなものが作れてしまうことになるため(これはエンジンメーカーがRR・GE・PWがほぼ作ってるから)
  • 売ったとしてもそこで終わりではなく、カスタマーサービスが飛行機の寿命分(30年とか)ついてまわること
  • 日本の航空機メーカーはセールス(販売)の経験がYS以来ない。

ってこと。これと日本の防需+ボーイングの下請けで重工メーカーは食べていけたため、あえて高いリスクをとるようなことはしなかったということ。これは確かに冷静に考えればそうなのだけれど、そういう冷静な思考の結果、YSよりも後発のエアバスにしろエンブラエルにしろボンバルディアにしろ抜かれてしまったわけで。

さらにそこで休憩。スタバのコーヒーが飲んでいいってことで、もらった。しかし後ろからぶつかられて手にかかって多少火傷した。コーヒーを飲んで、まったりとしていたら、次のパネルディスカッションが始まるという話で、戻る。多少席に空きができたので、メモするのも楽になった。

パネルディスカッションはさっきの発表メンバーに加え、JALの中島さん、東大新領域の武田教授、東大航空の李家教授、東大航空の鈴木真二教授だった。最初、この企画を作った人が質問した。

Q.B787の主翼を三菱重工では今作っているが、これと並行することでMJのモチベーションはどうなのか?ってこと。

確かにこれは非常に興味のある質問。そこでMHIの人が答えたところ、やっぱり今は人的リソースはB787に割かれているらしい(製造図完成した、と)。でもこれが落ち着いたらがっつりMJに取り掛かるという話。ちなみに圧倒的な人員不足のため、来年から名航では採用を増やすとのこと。うーんこれは大きいな。

Q.MJに対する産と官のビジョンは?YSの時は当時の通産省が手を引いて終わってしまったが、そういうビジョンの違いは起こらないのかってこと。この質問はまだ学部の1年生(だから駒場・教養)がした。まさに鋭い!とか思った。そこで経済産業省の人が答えた。やっぱりYSのときは日航製で官べったりだったし、販売者と製造者が違ったこと、などよく言われている問題点を指摘。今回はビジネスとしてMHIが考えているということ。さらに審議会で意思統一を図っていることなど。さらに鈴木教授が、ボーイングが1990に日本が飛行機を作る危険性はないのかってのを調査しにきたときに、技術者・技術は十分ある、しかしみんなベクトルがバラバラで協力していないため、絶対に作れない(=自分達の脅威にはならない)という報告を説明。これは初めて聞いた。さらにここで、そのなんとか審議会の座長の久保田さんから具体的なリスク・資本・保険などの話。そこでこの前やった(この日記のhttp://d.hatena.ne.jp/salamann/20060704参照)annualシンポジウムの話は出た。俺もそれ行ったよー!とか思った。熱意が今はあるということ。

Q.航空産業が進まないのは?また、資本的な面ではまずいのは分かっているが、技術的なとこでは実際どうなのかと言う話。この質問は他大の人がした。ここで初めて自分以外に他大の人がいたんだってことを認識。この質問が始まる前に、コーディネーターの鈴木教授が「質問するときは学年と名前を言ってねー」的なことを言っていたので、やっぱ東大なのが前提なのかと思っていたがそうでもなかったようだ。この質問に対する答えは、個々の要素技術では欧米にひけをとらない(むしろ日本なしではボーイング・エアバスも飛行機を作れない)が、やっぱり全機開発の経験がないってことがでかいようだ。さらに下請けなのでフィードバックがないということ。例えばJALでもANAでもトラブルが起こったときは全部ボーイングに報告が行き、日本にはその蓄積がないということ。さらにJAXAの人がCFDの技術ではボーイングに対しても引けをとらないと自負するが、ただ実際の飛行機を飛ばして実験ができない(空力性能や騒音性能などは1.CFD、2.風洞実験、3.実機の試験で決まる。ボーイング・エアバスはこの実機の実験データを膨大に持っている)ため、研究として閉じていないという例を紹介。さらに鈴木教授からみなさんの先輩方の研究ははMITにも負けてないんだと学会の発表から指摘。

Q.技術としての長期ビジョンはあるのか(YSから受け継がれているのか)ってこと。さらに、このMJの後継機とその技術伝達はどうなのかという質問。これはYSの時は作ってみたものの後のビジョンがなく、プロジェクトとして失敗したということを踏まえたものだと思う。これに対してMHIの人は、MJの後は決めていないということ。それじゃあYSの二の舞では?と少し思った。もし成功したなら、エンブラエルとボンバルディアからの反撃があり、それに対する後継機を作っていくのだろうともコメント。また、MJにもYS経験者のおじいちゃんが、CADを使ってバリバリ設計していたりするらしい(やべえかっこいいなそのおじいちゃん)。さらにここから前の方にいるおじいちゃん方が、「自分が一番、YSに継ぐ国産旅客機開発実現を願ってたんだ」というアピールとリアリズムの話。個人的にはリアリズムは無視できないものの、それだけでは何も進まないし、夢と熱意がないと駄目だろうと思う。そこらへんで終了。

その後、もう一回スタバのコーヒーをもらい、ひげのおじいちゃんと何故かYSの話とかイリューシンの話とかツポレフの話とかスピットファイアの話を、コーヒー飲んでたラウンジでされた。話に軸がなかったけれど、飛行機好きなおじいちゃんなんだってことは伝わった。それから自転車に乗り、帰る。途中で有馬記念の馬券を換金しようかと思ったけれどあいてなかった。

今日の話で思ったことは、段々国産旅客機の話が具体的になってきて興奮・嬉しいのと同時に、俺がこの場にいる異端者だったってことが残念で後悔。あーここ(東大の航空)に入りたかったなーといまさら感じて。俺の高校生の時に思い描いていた、東大理一に入る→進振りで航空へ→修士でて名航へ→そこでそのころやってるはずの(俺が高校生のときから結構噂になっていた)国産旅客機開発プロジェクトに参加、という計画が既に一番最初のステップでつまづいたのが痛かったなーもっと受験勉強するんだったな、と。あー俺は今なにやってんのかなーと思う。

しょうがないので今は目の前にある、来週テストの製図・工解析・流体・加工学を必死に頑張るしかないのだろう。しかし今日は長文だった。全部読む物好きはいるのかな。

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