スリウィジャヤ航空182便墜落事故の(きわめて初期の)考察

日紀

インドネシアでスリウィジャヤ航空182便が墜落したと報告されている(参考)。子どもの犠牲者が多く非常につらい事故だ。Flightradar24がADS-Bのデータを一部公開してくれているので、そのデータをもとに何が起きたのかを考えてみた。非常に限られたデータしかいまのところアクセスできず、この予想が当たっている自信は全くないので、この情報をもとに何らか行動することをお勧めするものではない。

ADS-Bのデータ

Flightradar24からADS-Bのデータをダウンロードできる。このデータをプロットした結果は下記のとおり。上の図はTakeoffから墜落まですべて、下の図は墜落前50秒を表している。使えるデータは、Speed, Altitude、Trackの3つ。これらはGPSの位置データから計算していると思われる。

注:GPS Track Angleは見やすさのため、>180degについて-360している。生データは0-360degで示してある。

注:下の図にはVertical Velocity (VV)を追加した。これは降下率の傾向を知りたかったからである。単にGPS Altitudeを微分しただけだとノイズが非常に大きかったので、微分したのち移動平均でスムージングした。

経過

Liftoffから約4分後に墜落している。離陸後、10900ftまで順調にClimbしていたが、そこからSpeedとAltitudeが一気に落ち、その10秒後Speedが上がり、最終的にかなりの速度で墜落した。

Track angleは30秒で70度程度反時計回りに変化し、そこから100度程度時計回りに変化している。

データの最終ポイントはaltitude=250ft, ground speed=358 kt。この速度だとまず助からないと思う。日常的な速度であるkm/hに直すと663km/h。リニア新幹線のトップスピードより速い速度で海に激突している。

データの見方

はじめSpeedとAltitudeを見たとき、何が起きたのかよくわからなかった。Altitudeは下がっているが、Speedも同時に下がっているからだ。普通はダイブするとSpeedは上がり、Altitudeは下がる。パイロットが操縦桿を引っ張ってStallを起こさせた場合、Altitudeが下がり、Speedも下がるが、それにしてはあまりにも急激な変化すぎる。

よく考えてみると、ここで公開されているSpeedというのはGPSのLatitude/Longitudeを使った平面内のGround Speedであることに気づいた。飛行機は減速したわけではなく、速度が一気に下向きになったので、Airspeedは下がってないがGround Speedは下がったわけだ。AirspeedのデータはFlightradar24に35ドル課金しないと見れないので見ていない。

この事実に気づいて3Dの(Ground SpeedではないGPS Speed)を計算してくれた人がいた。そのデータは下記のとおり。

これを見ると、速度はそれほど下がっておらず、最後の10秒くらいで増加していることがわかる。この速度変化であれば、ある程度ありうる機体運動である。ただし、ノイズが多いので細かい変化はわからない。

Boeing 737の他の事故例

Boeing 737は半世紀以上運用されていることもあり、事故例が非常に多い。今回の例に似た事故を探してみると、次の例があげられる。

Rudder Hardover

737のClassicシリーズはRudderのPower Control Unit (PCU)に欠陥があり、Rudder Hardoverが起こることがあった。この故障により、下記の事故が起きた。

  • United Airlines Flight 585, 25人死亡
  • USAir Flight 427, 132人死亡
  • Eastwind Airlines 517

他にも5-6ケースの事故がこれが原因で起きたのではないかと言われている。また、今回事故が起きたインドネシアではSilkAir Flight 185が似たような事故を起こしている。SilkAir Flight 185に関して、事故調査の結果はパイロットの自殺が原因と位置付けているが、決定的な理由は結局わからないため、Rudder Hardoverが原因の可能性もある。

Horizontal Stabilizer Hardover (みたいなもの)

737MAXが墜落した下記の2件の事故はこれが原因である。

  • Lion Air Flight 610, 189人死亡
  • Ethiopian Airlines Flight 302, 157人死亡

この事故の原因は過去の記事((1) Lion Air, (2) Ethiopian Airlines)にまとめたので興味があればどうぞ。

Rudder Trim Hardover (みたいなもの)

ANAのNH140が起こした事故。パイロットが間違ってラダートリムを使った結果、機体がひっくり返り、41000ftから35000ftくらいまで落ちた。詳しくはJTSBのレポート(PDFファイル)参照。

Go-around中の事故

次の2つの事故は悪天候下でのGo-around後にダイブして墜落している。パイロットの操作ミスが原因とされる。ロシアの事故調査委員会からは、エレベータ故障の可能性が指摘されているが定かではない。

  • Flydubai Flight 981, 62人死亡
  • Tatarstan Airlines Flight 363, 50人死亡

事故原因の推測

これから出てくるであろうFDR (Flight Data Recorder)の記録を待ちたいところ。現時点で過去の事故のどれに似ているかといえば、Rudder HardoverまたはRudder Trim Hardover (ANAの事故)である。

今回の場合、10900ftからTrack angleが変化しはじめ、急激にダイブを開始している。Rudderを踏み続けたり、Rudder Trimを使い続けたり、Rudder Hardoverが起きていたりすれば、機体はダイブしながらひっくり返る。ひっくり返ったあとはTrack angleの傾向が逆転するので、こうなると今回のようなデータになる可能性がある。この案はTwitterでDiscussionしていて出てきた(下記)。

737MAXのようなStab Hardoverの可能性もあるが、その場合はTrack angleの変化の説明がつかないので、パイロットが何らかの操作を足したか、複合故障の可能性が出てくる。Elevatorの片側Hardoverの可能性もある。エルロン、スポイラ、操縦輪などのHardoverも可能性がありそうだ。

パイロットが自殺して巻き添えになる事故というのもたまに起きるので、その可能性もある。有名なのはGermanwings Flight 9525で、副操縦士が機長を操縦席からしめだし、自ら山に突っ込んで150人が亡くなった事故である。こういう自殺のパターンでは、ダイブしてなくなるケースがある。

その他、機体の整備不良などの可能性もある。Adam Air Flight 574はIRSの故障が引き金となって落ちた737の事故だが、結果としてダイブして墜落している。Spatial Disorientation (空間識失調)なども考えられる。

思いつくことを書いてみた。事故調査、特にFDRの記録を待ちたい。

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