この文章は単なる日記なので結論とか新たな観点を伝えるために書いているわけではない。今週思ったことをとりとめもなく書いておこうと思っただけである。今週、トランプ大統領がアメリカ以外の国に対して相互関税を発表し、それによりアメリカをはじめとして全世界の株式が暴落した。それについて考えたことを書こうと思う。
ファクト
トランプ大統領は前々から相互関税を課すといっていた。たとえば石破首相との対談 (2月7日) でも、相互関税の話をしていた([1] Bloomberg, 石破首相が示したトランプ政権との付き合い方-予想以上の成果得る)。なので、特に相互関税自体は目新しい話題というわけでもない。また、トランプ大統領は選挙戦中から、当選したら関税をかけるという話をしていた([2] 毎日新聞, トランプ氏関税引き上げ、実現すればアメリカ経済にどんな影響?)。なので特に今回のニュースは別に目新しい話ではない。トランプは純朴に、半年前から言っていたことを実行に移しただけである。
一方で、こんなバカげたことをやらないだろうとみんな思っていた。アメリカはドルを刷って海外からものを大量に買って消費することで成り立っている国である([3] Reuter, コラム:半世紀超にわたる米ドル王座、関税戦争超えて継続へ)。それなのに輸入品に対して一律に関税をかけてしまうと、実質消費税が上がったようになり、景気が冷え込むかコストプッシュ型インフレになるかになり、誰も得をしないからである([4] 第一生命経済研究所, トランプ関税の悪いシナリオ~身構えるマーケット~)。
それにも関わらず、もともとトランプ大統領が選挙戦中から言っていた通りの、現代ではあまり見ないレベルの関税を海外からの輸入品にかけた([5] NHKニュース, トランプ大統領 相互関税日本に24% 一律10%関税【一覧表も】)。この影響により、株はとんでもなく下げた。アメリカの代表的な株価指数であるS&P500は1か月半前につけた過去最大値から17%下げた。日本円基準だと20%下げている。ブラックマンデーが22%の下げなので、もうその域に近い。

新NISAが始まった2024年初頭の4742だったので、もう300下がれば新NISAで初めてS&P500を買い始めた人は全員含み損を抱えることになる。ここでS&P500を取り上げているのは、アメリカの代表的な株式指数であることに加え、日本人がNISAでもっとも購入している商品だからという理由もある。

感想
今回の関税は相互関税と言われているが、実際には相互的(=日本がアメリカからの輸入品にかけている関税と同じ額をかける)ではない。計算式は対米貿易黒字額/対米総輸出額*0.5 ([6] USTR, Reciprocal Tariff Calculations) であり、相互関税というよりは対米黒字税である。アメリカとの貿易で儲けることに対する罰みたいなものである。なので相互関税というよりは、「いわゆる相互関税(相互関税ではない)」みたいな言い方のほうが正しそうだ。
この計算は上記のとおり相互関税ではないので、そもそもはちゃめちゃである。オーストラリア領の無人島にも関税をかけたことが明らかになっており、トランプとペンギンの対決写真がソーシャルネットワークにはあふれた。

また、フランスの海外県では10%の関税率でありEUの20%より安いとのことで、簡単な租税回避スキームになっている。世界でもっとも繁栄した国のトップが発表する資料がこのクオリティ?と愕然とした人も多そうだ(ちなみに普通のアメリカ人クオリティでいくとだいたいこれよりひどいから、素人の集まりがホワイトハウスにいると思えば特に不思議ではない)。ChatGPTにやらせたという説もある([7] Trump’s new tariff math looks a lot like ChatGPT’s)。
関税の影響はどうなるんだろう。自動車についていえば、日本や韓国、ドイツはアメリカでのシェアが高く、影響が大きそうだ。アメリカの工場で完成車を作っている割合が多いところもあるが、スバル、マツダ、三菱、HYUNDAI/KIA, VWなどは海外生産比率が高く、これらの価格が25%上がったら大変そうだ。30000ドルで買えたクロストレックが40000ドルになったら誰も買わなさそうである。
一方でアメリカのメーカーであるテスラ、フォード、GM、ステランティスもダメージがありそうである。テスラは100%アメリカ生産だが、特にGMとステランティスは海外生産比率が高く、ホンダとかよりダメージが多そうだ。全員がテスラとフォードを買うわけではないので、アメリカ人が車に払うお金はだいぶ高くなりそうだ。ただでさえアメリカは車が高いのに、アメリカ人は物価高で大変になりそうだ(シアトルでクロストレックを新車で買おうと思うと、一番安いやつで30000ドルくらいはかかるので、21000ドルくらいで買える日本に比べるとすでに高い)。

車はまだだいぶマシな気がする。たとえばアメリカ人が着ている服は、ベトナム人とかバングラデシュ人とかが時給100円とかで12時間労働とかをして縫製したものである。児童労働も多く行われている。トランプ大統領はアメリカにもう一度雇用を作り出すと言っているが、本当にアメリカ人は果たしてこういうタイプの労働に戻りたいのだろうか?ちなみにシアトルの最低賃金は$20.76 (3,000円)である。アメリカ人が作った服はとんでもない高級品になりそうだ。

アメリカ企業が作っている海外生産の品も軒並み価格が上がりそうである。たとえばiPhoneはほぼすべて中国製であるので、このままいくと54%の関税がかかる ([8] BBC News, 米株式市場が2020年以来の急落、「トランプ関税」で 中国とEUは報復を宣言)。iPhoneの価格が34%上がったら、シアトルの人はみんなバンクーバーでiPhoneを買うことになりそうだ。バンクーバーまで3時間運転すれば、5-10万円安く買えるのであればすごい得である。果たしてこんな仕組みが本当に成り立つのだろうか?
飛行機の世界でも関税は影響しそうだ。ボーイングは世界中に向けて飛行機を売っているが、そのサプライチェーンには日本などを含んでいる。たとえば、787の生産は日本やイタリアで行われている部品がある。

これらの部品にかかる関税が最終製品のコストとして積み重なってくるので、最終製品の価格は上がりそうである。ただ、他のセクターに比べると飛行機の部品はアメリカ製が多いので影響は少なさそうだ。せいぜい10%程度の値上げで済むかもしれない。
下記のように、日本やイタリアなどから輸入している構造パーツは航空機のコストベーシスから考えると全体の25%程度に過ぎないし、全量を輸入しているわけではなくアメリカで製造している部品も多い。エンジンやシステムなどのコストがかなり高いのだが、その部分に関してはアメリカ製が多く、材料費などを除いては影響が少なさそうだ。

また、エアバスは影響が少ないからボーイングからエアバスにエアラインが乗り換えたいと思っても、旅客機は需要に対して供給が間に合っていない産業であり、今からオーダーしても10年待ちになることもある。10年たったらさすがにトランプももういなくなってそうだ。ちなみに、エアバスはアメリカでも生産しており ([9] Airbus, Airbus in the United States)、多くのパーツをヨーロッパから輸入して組み立てていることから、むしろボーイングより影響が大きそうだ。
関税とは直接関係あるわけではないが、アメリカ製であるF-35を買いたくない国が増えている([10] 乗り物ニュース, トランプ外交への不信感が露わに 「F-35戦闘機」離れNATO加盟国で次々と 日本は大丈夫? )。イギリス、イタリア、日本で開発を始めようとしているGCAPへの興味を示しているという報道も出ている ([11] Army Recognition, Focus | Australia and Canada consider partnering in GCAP future fighter program as US policy changes weaken longtime alliances.)。暴れた象のようなアメリカは信用のおけない国であるという評判をまた回復させるのにはトランプ政権が終わるまでは少なくとも待つ必要がありそうだ。
株価が実際の生活にはどう影響を与えるのだろうか?アメリカ人は通常、確定拠出型年金 (401k)としてインデックスファンドなどに投資をして、老後に備えている。401kは転職しても年金を持って行ける便利な制度であり、非課税であるため積み立てを行うのに有利である。企業によっては従業員の拠出した額に応じてマッチングを行っているところもあり、老後資金を貯める仕組みになっている([12] Union Tax Solutions, アメリカ401(k)の仕組みは?)。
これはだいたいインデックスファンドで積み立てられているため、たとえば今回のトランプ関税ショックにより17%下がった分は多くのアメリカ人の老後資金を毀損した。アメリカ人はどのくらいこれに耐えられるのかよくわからないが、もし株価が戻ってこなければ、反発は大きそうだ。特に50代、60代あたりで引退が近づいている人へのダメージは大きそうで、自分なら反発する。
今後の見通し
株価がどうなるのかは気になるところだ。これが終わりの始まりであり、ここから景気悪化するシナリオであると考えるとまだ株価は下がる余地がありそうだ。アメリカのPERはもともとかなり高く ([13] 銀行INFO, 世界主要株式市場の株価収益率(PER))、割高感があった。
一方で、この関税は恒久的なものではなく一時的なものであるはずだという意見もよくみる。共和党のテッド・クルーズ上院議員(テキサス州)は、「もし他国が報復措置として関税を課し続け、アメリカの関税もそのままであれば、これがアメリカにとって非常に悪い結果を招く」と言っている ([14] Politico, Ted Cruz warns Trump tariffs could be ‘terrible for America’)。まあそうだろうなという感じだ。クルーズはこの貿易戦争が2026年の中間選挙に悪影響を及ぼす可能性があると警告し、特に深刻な景気後退があれば、その影響は共和党にとって「血のような選挙結果」をもたらすだろうとも言っている。中間選挙で共和党が負ければねじれ国会となるため、トランプはいまのような独裁を続けることができなさそうだ。
実際、アメリカ人がこの重税に耐えられるのかよくわからない。トランプを支持している中間層は、自らが犠牲となる関税を支持しているわけだが、実際に自分が「肉屋を支持する豚」であったことに気づいたときにはどうなるのだろうか。そうなったらトランプ政権は大変なので、関税はあくまで最初のパンチであり、この半年くらいを通じて徐々に関税を下げていくつもりなのかもしれない。もしかするとやけくそで続けるのかもしれないけれど。
この関税で得られる税収は60兆円ともいわれる ([15] Reuter, トランプ氏の関税収入の減税財源構想、共和党内から反対も)。この税収を用いて減税をしようというのが一案だが、肉屋を支持する豚は、物価が上がっても減税を手放しで賞賛できるのだろうか?得られる税収も、物価への影響もどちらも日に日に重なっていくので、どのタイミングまでこの関税を続けるのかが重要そうだ。
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