維新の吉村さんが、1割の議員定数削減をしない限り連立を組まないと言ったというニュースを見た。さらに、その削減候補としては衆議院の比例を想定しているという。そうすると果たして誰が得して誰が損するのかが気になったのでシミュレーションすることにした。
一般的に、選挙制度や区割りの変更はゲリマンダー的な要素を含む。アメリカでは、例えば共和党が選挙区割りを見直すときに、できるだけ共和党候補に有利になるように選挙区の区切りを動かしてたりするのはよくある。また、今回の維新の提案は比例を50削減という偏った方式なので、恐らく比例で議席を得ている党に集中的にダメージがいくことが容易に想像できる。例えば公明党とかだ。果たして実際には定量的にどのようなダメージまたは利益があるのだろうか?
計算方法
2024年の衆議院選挙のデータを用いる。この選挙では、比例176議席、小選挙区289議席を争った。比例に限って50減らすという話なので、比例が126議席になると仮定する。一票の格差問題を無視し、各比例選挙区が単純に1-126/176=28.4%減になるとする。
衆議院の比例はドント式により議席が決まる。得票数は2024年のものとし、単に各選挙区の定員を減らした歳に当せんする議員をシミュレーションする。ドント式の配分結果は公明党が公表しているものを用いた。
また、2024 衆議院選挙では、東海ブロックおよび北関東ブロックで、国民民主党の名簿が足りなくなり、他の党に議席を譲るという問題が起きた。この問題は再現しないものとして考える。つまり、どの党も十分な名簿を持つものとする。この問題が再現することを想定することにあまり意味がなく、次の選挙ではおそらく再現しないからである。
結果
区割りの変更は下記のとおり。
地域 | 現状 | 50減少 |
---|---|---|
北海道 | 8 | 6 |
東北 | 12 | 9 |
北関東 | 19 | 14 |
南関東 | 23 | 16 |
東京 | 19 | 14 |
北陸信越 | 10 | 7 |
東海 | 21 | 15 |
近畿 | 28 | 20 |
中国 | 10 | 7 |
四国 | 6 | 4 |
九州 | 20 | 14 |
合計 | 176 | 126 |
比例の定数削減前後の各党の比例での議席数は次の通り。
政党 | 改正前 | 改正後 |
---|---|---|
自民 | 59 | 42 |
立民 | 44 | 35 |
公明 | 20 | 13 |
国民 | 17 | 15 |
れいわ | 9 | 6 |
共産 | 7 | 4 |
維新 | 15 | 10 |
保守 | 2 | 0 |
参政 | 3 | 1 |
社民 | 1 | 1 |
無 | 12 | 12 |
合計 | 176 | 126 |
小選挙区と比例を合わせた議席数は下記の通り。
政党 | 改正前合計 | 改正後合計 |
---|---|---|
自民 | 191 | 174 |
立民 | 148 | 139 |
公明 | 24 | 17 |
国民 | 28 | 26 |
れいわ | 9 | 6 |
共産 | 8 | 5 |
維新 | 38 | 33 |
保守 | 3 | 1 |
参政 | 3 | 1 |
社民 | 1 | 1 |
無 | 12 | 12 |
議会占有率は次の通り。
政党 | 占有率(前) | 占有率(後) | 占有率の増減 |
---|---|---|---|
自民 | 41.1% | 41.9% | 2.1% |
立民 | 31.8% | 33.5% | 5.2% |
公明 | 5.2% | 4.1% | -20.6% |
国民 | 6.0% | 6.3% | 4.0% |
れいわ | 1.9% | 1.4% | -25.3% |
共産 | 1.7% | 1.2% | -30.0% |
維新 | 8.2% | 8.0% | -2.7% |
保守 | 0.6% | 0.2% | -62.7% |
参政 | 0.6% | 0.2% | -62.7% |
社民 | 0.2% | 0.2% | 12.0% |
無 | 2.6% | 2.9% | 12.0% |
考察
一番得をするのは立民である。比例削減の前後での議会占有率を最も上げることができるからだ。ついで、自民も少し得をする。維新は多少の損失を出すが、減少は2.7%と小さい。国民は数字上は少し得するように見えるが、後述のように現状の議席は得票数に対して少ない(過小評価されている)ため、実際には多少ダメージがある。
主なダメージは公明党、れいわ、共産党にいく。これらの党は2-3割の議席を失うことになり、議会における発言権も減るであろう。つまり、この選挙制度改革は、公明党、れいわ、共産党を弱体化させる代わりに、立民や自民などの勢力を強めることが予想される。
そう考えると、吉村さんはむしろ立民をサポートし、公明党、れいわ、共産党を叩き潰そうとしているということもできる。そう考えると左翼側のの少数政党をやっつけたいのかもしれない。一方で維新は得しないので、自分たちの利益になるように改革を行うゲリマンダー的な要素は少ないと言える。
少数政党(保守、参政、社民)および無所属は、数が少なすぎてあまり影響を考える意味がないので考察からは省く。
所感
立民や自民のような大きな政党は、小選挙区に強く、相対的に比例で議席を他の党に受け渡しているため、比例を減らせば減らすほど得をする。特に、立民は比例で人気がないにも関わらず、自民党に入れたくないという小選挙区での受け皿としての役割があり、小選挙区に相対的に最も強いため、比例定数削減で利益を得る。
維新は大阪発祥の地域政党色が強く、小さい政党ながらも大阪の小選挙区で絶対的な強みを持つ。そのため、身を切る改革と言いながら、実際にはそこまでダメージはない。実際に切っているのは、身ではなく公明党、れいわ、共産党である。
国民民主党は、労働組合からの組織内議員がおり、比例のほうが強い政党である。しかし、前回は名簿が足りなくなったため、実際の投票率に対し議員の数が少ない状態となっている。そのため、この改革で恩恵を受けるように見えるが、実際にはダメージのほうが大きい。労働組合の組織内議員が減るからである。
公明党、れいわ、共産党は厳しい結果となる。公明党、れいわ、共産党のような少数勢力は主に比例で当選しているため(小選挙区では多数派になりにくい)、ダメージをもろに食らう。今までは比例で下駄を履かせてもらっていたともいえる。
上記のようにシミュレーションしてみたが、実際には2025 参院選の結果を見ると、恐らく参政党がもっと伸び、チームみらいも恐らく議席を獲得し、自民党と公明党は連立解消により議席数を減らす(どちらも小選挙区で立民に負ける選挙区が増える)。なので、上記のようにはならないだろうが、方向性としてはこの検討のようになるだろう(もし実現すれば)。
ちなみに、この選挙後に無所属から自民党に戻った議員が数名いるため、現在の自民党はこの当時より数が多く、196人となっている。この無所属は全員小選挙区のため、比例には影響がない。多少占有率が変わる程度。
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