朝。体が布団にくっついたように重い。起きたばかりなのに喉にものが引っかかる感じを覚えた。風邪をひいたと思った。2002年の夏、剣道の合宿に行っていた山中湖の、ひんやりとしている中に夏っぽさが残る朝が今日の朝に似ていて、天候は今日気持ちよかったけれど、体調はそうはなれなかったなと思う。
昨日帰ってきたのは3時半。実家に手紙を取りに行っていて、弟がやっているMGS4とか、いつの間にか変わってしまったリビングのテレビを見ていたらそんな時間。真夜中の甲州街道は正月の東京のように車が少なく、俺は院試で電卓を忘れたときのことを考えていた。例えば三角関数、例えば平方根、例えば対数、例えば乗数。
三角関数と平方根、対数はマクローリン展開とかテイラー展開とか使えば、時間さえあればなんとかなる。試験だからそんな悠長な、暇なことをしていてはニートだ。乗数は微分が面倒な気がしていた。暗闇の中、たまに来る自動車に抜かされ、ペダルを90回転に維持しながら、自転車のワット数を考えていた。
10°の坂を、自転車と体重合わせて70kgの人が10.8km/hで上るときの仕事率。空気抵抗、路面抵抗、駆動抵抗を思い切って無視して車上の俺はクランクを回しながら考えた。必要な力はmgsinθ。sinθはマクローリン展開し、3次の項を無視すると高校のときに習った、sinθ=θだ。円周率を3とすると角度は10/180*3=1/6。
重力加速度を10とすると、mgsinθは70*10/6=117。10.8km/hは3.6で割って3m/sだから、ワット数Fvは117*3=351W。坂が10°というのはかなり辛いことが今更分かる。さらにどのくらいまで行けば3次の項が微少でなくなるのかとかを考えていた。10°はパーセント表示だと17%、和田峠。
夜の3時は7月に入ったとは思えない寒さだった。Tシャツの上にジャージを羽織って、首都高3号線の下の道を、夜道の主であるタクシーと走る中、すでに体は限界だったのかもしれない。家に到着してからは、たいしたことをすることもなく寝てしまうだろうと思っていた。
今日は昼まで起きられず家で横たわっていた。実験があるのでそのギリギリになってなんとか抜け出す。外に出てみると夏の太陽がまぶしい。交差点で信号を待つ間、そのまぶしさに風邪を引いた俺は耐えられず目をつぶっていた。夏がもう来ている。俺は準備ができていない。
実験のあとは、部屋で材力。材料力学は前から全くやる気がしないけれど、過去問は材力をのぞくとだいたいやったのでこれをやるしかない。もう一問目から分からない。曲げとかたわみはまだいいとして、ねじり。これがほんとに理解していない。一つ前の代の機体はねじり下げして琵琶湖に入水したのに。
MGS4。もうクリアしたらしい。
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