以前、メニエール病の治療の話を記事に書いた。減塩が効くという話だったので半年くらい減塩をしていたのだがあまり目立った効果は得られなかった。2024年の5月にいよいよ何かしないとやばいなと思い、論文を検索して治療法を調べて実践することにした。
メニエール病に対する治療方針
メニエール病のガイドラインについては下記の論文が分かりやすい。
論文を20-30個くらい読んだ結果、有酸素運動をやたら推している論文(同じ人が書いている)があった。たとえば下記の論文である。
- [1] 高橋正紘: 生活習慣・ストレスの関与 (メニエール病). Equilibrium Res 67: 213-221, 2008
- [2] 高橋正紘: 生活指導と有酸素運動によるメニエール病の治療. Otol Jpn 20: 727-734, 2010
- [3] 高橋正紘: メニエール病1,008名の集計と有酸素運動による治療成績. Otol Jpn 25: 828-835, 2015
- [4] 高橋正紘: 有酸素運動で著明に改善したメニエール病進行例の一例. Otol Jpn 18: 126-130, 2008
- [5] 高橋正紘: 有酸素運動導入で一新されたメニエール病の治療と概念. Equilibrium Res 70: 204-211, 2011
- [6] 高橋正紘: メニエール病の進行と改善における内リンパ水腫の変化. Equilibrium Res 80 (3) 195-199, 2021
この高橋先生という方がひたすら論文を書いており、とにかく薬は効かないので有酸素運動をやるべきであると推している。通常、「薬は効かない」という主張は、がんに対する代替医療だとか、あやしさがこみあげてくるものがあるが、これらの論文(ほとんどは臨床例の紹介)によれば、実際に有酸素運動によってかなり改善が見られるという研究結果が1000人以上の患者に対して示されており、納得感がある。心拍数100-120の運動を週5回以上(基本、毎日)やる必要がある。
日本にいたときに、片耳が聞こえなくなったときに耳鼻科にいくともらっていた薬はイソソルビド内用液、アデホスコーワ顆粒、メチコバール錠(ビタミンB12)の3点セットであった。しかし、これらを飲むと一時的に聴力が回復するものの、数週間~数か月するとまた同じような症状になり、耳鼻科にかけこむことになる。さらに、これらを飲まなくても治ることもあれば、飲んでもあまりよくならないこともあり、あまり相関性が感じられないなとは思っていた。
アメリカに来てもたびたび耳が聞こえなくなるので、医者にいったこともあるが、そもそもアメリカではメニエール病や低音障害型感音難聴に対してイソソルビドを処方することはないと言われてしまい、もう使えなくなってしまった。アメリカでいくつか権威のある病院のメニエール病の薬による治療方法を見ると次のとおりである(日本語訳はchatgpt 4o miniによる)。
めまいのための薬 医療提供者は、めまいの発作時に症状を軽減するために薬を処方することがあります:
乗り物酔いの薬。メクリジン(アンチヴァート)やジアゼパム(バリウム)などの薬は、回転感を和らげ、吐き気や嘔吐を抑えるのに役立ちます。 吐き気止めの薬。プロメタジンなどの薬は、めまいの発作時に吐き気や嘔吐を抑えるのに役立ちます。 利尿薬とベタヒスチン。これらの薬は、単独または併用してめまいを改善するために使用できます。利尿薬は体内の液体量を減らし、内耳の余分な液体量を減少させる可能性があります。ベタヒスチンは、内耳への血流を改善することによってめまいの症状を軽減します。
Mayo Clinic – Meniere’s Disease
薬物療法
メニエール病の薬物には、経口で服用する薬が含まれます:Cleveland Clinic – Meniere’s Disease
- 利尿剤(利尿薬)とベタヒスチン:医療提供者は、体内の水分量を減らすために利尿剤を処方することがあります。また、ベタヒスチンを処方されることもあり、これは内耳の血流と循環を改善して水分の圧力を軽減します。
- 乗り物酔いと抗吐き気薬:これらの薬はめまい発作をコントロールするのに役立ち、回転による吐き気や嘔吐を軽減するものもあります。薬剤にはジアゼパム(バリウム®)やメクリジン(アンチヴァート®)があります。
「薬物。アレルギーをコントロールしたり、体内の液体の蓄積を減らしたり、めまいを軽減したり、内耳の血行を改善するために薬が処方されることがあります。」
John’s Hopkins Medicine – Meniere’s Disease
薬物療法
メニエール病に効果的な薬物には以下のものがあります:
利尿剤はメニエール病の維持療法として最も一般的に処方される薬です。利尿剤は内耳の過剰な液体の生成を抑えることによって作用します。利尿剤は長期間使用する薬で、めまいの発作の回数を減らし、場合によっては聴力の安定にも役立ちます。一般的に使用される利尿剤には、ダイアモックス(アセタゾラミド)やダイアジド(トリアムテレン/HCTZ)があります。 メクリジン(アンチヴァートまたはボニン)はめまいのコントロールに最もよく処方される薬です。市販されているドラマミンはより穏やかですが、効果がある場合もあります。 バリウムは少量で、他の薬がめまいのコントロールに効果がない場合に有用なことがあります。
Mount Sinai – Meniere’s Disease
上記のとおり、利尿薬に関する記述は記載されているが、浸透圧利尿薬(イソソルビドなど)に関する記述はない。日本と同じ治療ができないこと、有酸素運動が優位に効くとされていることから、有酸素運動を始めることにした。
有酸素運動の効き目の調査
高橋先生の統計によると、メニエール病の症状のうち、めまいや耳閉塞に関しては有酸素運動がかなりの患者に効くとある。例えば、資料[6]によれば、有酸素運動によりめまいは97.6%が消失、耳閉塞は60.1%が消失する。難聴に対して効くかどうかはかなり人によるらしいが効くケースもある。資料[6]によれば、38.5%が聴力改善とある。個人的にはめまいがすることはないので、難聴にならないことが重要なので効くかどうかは分からないなと思っていた。一方で、メニエール病の中では軽度もしくは初期なんじゃないかと思うので、慢性化して固定化した人に比べると効果がありそうだなとも思っていた。
一方で、高橋先生以外の論文で有酸素運動の有効性を検証したものは少ない。単に探せなかっただけかもしれない。たとえばPubmedで検索したら下記が出てきた。
- [7] Pyykkö I, Pyykkö N, Manchaiah V. Associations Among Medical Therapy, SelfAdministered Exercise, and Characteristics of Ménière’s Disease. J Int Adv Otol. 2023 Jul;19(4):323-332. doi: 10.5152/iao.2023.21559. PMID: 37528598; PMCID: PMC10544177.
- [8] Pyykkö I, Pyykkö N, Zou J, Manchaiah V. Does the Self-training in Ménière’s Disease Fit the Disease Characteristics and Help Alleviate the Balance Problems? J Int Adv Otol. 2022 Jan;18(1):25-31. doi: 10.5152/iao.2022.21205. PMID: 35193842; PMCID: PMC9449710.
しかし、これらの論文の結論は有酸素運動の効果を検証したものではない。論文ではないが、ストレスを減らすという観点で進めている文献はいくつかある(日本語訳はchatgpt 4o miniによる)。
運動とストレス軽減は必須です。
Meniere’s Disease – A Checklist to Help You Cope, Vestibular Disorders Association
メニエール病の多くの人々は、定期的に激しい有酸素運動(例:自転車、ローイングマシンなど)を行うことで調子が良くなると感じています。無理をしないようにしましょう。もし激しい有酸素運動が体力的に難しい場合は、ヨガやウォーキングのような低負荷の運動を試してみてください。バランスの問題で歩行に困難がある場合は、ウォーキングポール(「ノルディックウォーキングポール」とも呼ばれる)を使ってバランスを保つのに役立ててください。安全のために、平坦で良く照明されたウォーキングルートを選び、水分補給のために水を持参することを忘れないようにしましょう。
ストレスを軽減しましょう
ストレスがメニエール病を引き起こすわけではありませんが、症状を引き起こしたり、悪化させたりする可能性があります。ストレスへの対処法については、医療提供者に相談しましょう。以下のヒントを参考にして、始めてみましょう:自分が緊張を感じる原因に注意を払いましょう。体が緊張にどのように反応するかを確認しましょう。腹痛や筋肉の緊張、歯を食いしばる、その他の症状など、体からのサインに「耳を傾けて」みましょう。
定期的な運動プログラムを始めることについて、医療提供者と相談しましょう。運動はストレスを軽減する素晴らしい方法です。ウォーキングやジョギング、自転車、泳ぎなどの有酸素運動を運動プログラムに組み入れましょう。また、筋肉を強化する運動も含めましょう。食事内容の見直しが必要かもしれません。
毎日の雑務や家事から少し時間を取って、楽しんでリラックスできることをしましょう。リラックスタイムを無駄な時間と考えず、健康への投資だと考えましょう。
視覚化技法、深呼吸法、漸進的筋肉リラクゼーション、ストレッチ、ヨガ、祈り、瞑想、バイオフィードバックについて、医療提供者に相談しましょう。これらはすべてストレスを軽減する方法です。
Saint Lukes – Treating Ménière’s Disease: Reducing Your Stress
また、個人の体験談はいくつかある。
- Menieres and fitness – reddit: メニエール病の治療のためにトレーニングをした人の話がいろいろ載っており、よくなった例も結構ある
- Exercise with menieres? – reddit: 何の運動がよいか議論している
- メニエール病を克服した方法 タンタタン – Note : 有酸素運動でめまいが消失
- 走るの、大嫌いだったのに。 ねこくらげ – Note: 有酸素運動でめまいが消失、耳鳴りは治っていない
- メニエール病とめまいに効く運動 黒崎すみれ – Note: めまい、耳鳴り、難聴が改善
Twitterにもいろいろ載っている。
ちなメニエール病、低音障害型感音難聴に関しては俺自身も罹患者だからクソ解像度高いけど、俺は3回再発したものの、有酸素運動の力技で元に戻るっていう珍妙な症例なので他の罹患者の方はあまりあてにしないでください。有酸素運動はあくまで予防策の一つです
@Laugh_Swordfish
有酸素運動始めてから、ここ2年1度もめまいなし
耳の聞こえも改善した! 寒くなって家から出るの億劫になるけど、続けていこう
@umazuki_0428
そうですね メニエールのめまい改善で始めたのが有酸素運動=縄跳びでした 縄跳び始めて来年の1月で丸4年経ちますが、吐き気を催す強烈なめまいは発症していませんので…耳鳴りも同じように改善できる術があるのかもしれませんね
@ca20002008
私もメニエール持ちで、一番のときは仰向けに倒れるほどでしたが、有酸素運動を定期的に続けており、10年近く発症していません キツイと思いますが、頑張ってください
@kangaetyuu_desu
初めまして、12年前突発性難聴2回発症しメニエールにもなり入院しました。 はなさんと同じ様に片耳が聞こえずもうどん底の中、メニエール専門の病院にかかった所今すぐ有酸素運動をしなさいと。騙されたと思って1日合計1時間有酸素運動をしたら3ヶ月ほどで完治しました!(薬なしです)本当に治ったので
@aiko_iiirecoii
中学から5回くらい経験しています。一度メニエールに進行することも。ステロイドの内服でぶり返してしまい、地区で有名なめまいの外来に通院を変え、そこで専門医に言われたのは、まめな水分補給、良質な睡眠、とにかくリラックス、毎日の有酸素運動を勧められました。これで何とか治ってきました。
@haccoy
最初は低音障害型感音難聴だったとしても、徐々にメニエール病に進展し、めまいや耳鳴り、難聴が両耳に広がることはよくある例のようであり、その進行が少しでも抑えられたらいいなと思うので有酸素運動を始めることにした。耳聞こえなくなったら人生大変そうだしな。
運動した結果
有酸素運動をしたほうがいいとわかったので、始めた。経過は次のとおり。
- 2024年5月23日: 1日1時間の有酸素運動開始。
- ターゲット心拍数は100以上、週5回以上。
- 心拍数はXOSSのハートレートモニターで計測。Fitbit Senseで補助的に計測(ちなみにFitbitの心拍はあまりあてにならない)。
- 内容はジムでトレッドミル(坂を歩くやつ)、エリプティカル(手と足が回転するやつ)、スピニング(自転車)のいずかれか。
- ちなみにこの日は発作中であり、右耳が低音域と高音域で難聴であった。いままで1回難聴になると4-5日かけて徐々に治っていたものが、この日はトレーニング後次の日には治っていていきなり効果があったのかなと思った。
- 5月30日: 発作、また右耳が聞こえなくなるが諦めずにトレーニングを行い、翌日には治る。
- 6月12日: 発作、右耳が聞こえなくなるがトレーニングを引き続き行い、翌日には治る。
- 6月16日: 発作、上に同じ。
- 7月17日: 発作、上に同じ。
- 2025年1月18日現在: 7月17日の難聴を最後に、半年以上難聴になっていない。
この通り、有酸素運動は劇的に効いている。運動強度は高くする必要がない(心拍数100は最大心拍数の55%程度)ものの、毎日1時間運動するため、耐久力がついた気がする。内容は半年たったいまでもだいたい同じで、下記の通り。
- 平日: ジムで自転車1時間または屋外ジョギング1時間以上
- 休日: 山で2-3時間のハイキングまたはオリエンテーリング
あまりにも疲れてジムに行く気力がないときは、家で踏み台昇降をすることで心拍数100近くまで頑張ってあげている。こんなに効果があるとは思わなかったが、やってよかった。曲者なのは運動をやめるとまた症状が復活するだろうと予想されるため、まさに赤の女王のように走り続ける必要があることだ。まあしょうがない。
有酸素運動が効く機序はよくわからない。有酸素運動によりストレスが減ることが重要なのか、運動によって血行が良くなることが重要なのか、運動で疲れてよく寝られるようになるのがいいのか、それらの組み合わせなのか。そのうち研究が進んだら理由が分かってくるかもしれない。
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