中国東方航空5735便が墜落したのでいま時点で得られているデータから、何が考えられるかをまとめる。
基礎データ
落ちた飛行機は次のとおり。
- Boeing 737-800
- Registration: B-1791
- MSN: 41474/5453
- First Flight: 2015-06-05 (6歳10か月)
- Operator: 中国東方航空
- Flight: MU-5735, ZPPP to ZGGG (昆明から広州)
- 時系列:29000ftを巡行中、いきなり急降下して墜落。ものすごい速度で地面に衝突したとみられ、生存者は絶望的。
フライトデータ
Flightradar24が数値データを公開してくれている。最後の3分のデータは下記のとおり。拡大したい場合はこちら。
このデータを見ると、6:20:43までは何も問題なく29100ftを飛んでいるのに、その次のデータの6:20:59には27025ftになっている。この16秒間の間に何かCatastrophicな現象が起きて落ちてしまったようだ。6:20:59からのVertical Speed (VV)を見ると20000-30000ft/minであり、この速度は飛行機として空を飛んでいるというよりは物体が落下したときの終端速度である。そう考えると、もうこの時点では飛行機が飛行機の形をしていない、つまりはすでに翼がとれていたのはという感じがする。
このような現象は果たして何によって起こるのだろうか?いろいろデータが集まってからでないと難しいので何とも言えないが、たとえばマレーシア航空17便は2014年、ウクライナ上空でロシアのミサイルに撃ち落とされており、その際は上空でデータが途切れていた(下記参照)。
今回の場合は3000ftくらいまでデータはあるので状況が若干異なる。flightradar24では飛行機がADS-Bで発信したデータを受信していることを考えると、3000ftくらいまではまだ機体のシステムが生きており、ADS-Bでデータを発信し続けていたということになる。もしミサイルだとしても、機体システムが壊れないレベルに機体を壊した、というパターンはありえそうだ。
データをよく見ると、6:21:45から6:22:20くらいまでの間、8000ft付近で高度をキープしている。これは舵面がまだ生きていてパイロットが引き起こしに成功したあと失速したのか、機体が分解か何かした結果こういうデータになっただけなのか気になる。
速度ははじめ下がっているように見える(降下開始して15秒程度)。ただし、この速度は二次元平面内のGPS速度である点に注意が必要であり、実際のAirspeedとは異なる。その後は上昇している。最後はまた減少しているが、これはFlight Pathが急すぎるためであろう。
同型機の近年の事故例
類似の事故はあるのだろうか?この機体は数年前に話題になった737-8 (MAXシリーズ)ではなく737-800であり、Boeingのベストセラー機である。近年の死亡事故は次の通りである。データはaviation-safety.netより引用した。また、737-600/700/800/900は同じシリーズであるため、一緒に並べている。
番号 | 日にち | 型式 | 登録 | エアライン | 死者数 |
1 | 2005/12/08 | Boeing 737-7H4 (WL) | N471WN | Southwest Airlines | 0+ 1 |
2 | 2006/09/29 | Boeing 737-8EH | PR-GTD | Gol | 154 |
3 | 2007/05/05 | Boeing 737-8AL | 5Y-KYA | Kenya Airways | 114 |
4 | 2009/02/25 | Boeing 737-8F2 | TC-JGE | THY | 9 |
5 | 2010/01/25 | Boeing 737-8AS (WL) | ET-ANB | Ethiopian Airlines | 90 |
6 | 2010/05/22 | Boeing 737-8HG (WL) | VT-AXV | Air India Express | 158 |
7 | 2010/08/16 | Boeing 737-73V (WL) | HK-4682 | AIRES Colombia | 2 |
8 | 2015/12/23 | Boeing 737-86J (WL) | TC-CPV | Pegasus Airlines | 0+ 1 |
9 | 2016/03/19 | Boeing 737-8KN (WL) | A6-FDN | flydubai | 62 |
10 | 2018/04/17 | Boeing 737-7H4 (WL) | N772SW | Southwest Airlines | 1 |
11 | 2018/09/28 | Boeing 737-8BK (WL) | P2-PXE | Air Niugini | 1 |
12 | 2019/02/24 | Boeing 737-8E9 (WL) | S2-AHV | Biman Bangladesh | 1 |
13 | 2020/01/08 | Boeing 737-8KV (WL) | UR-PSR | Ukraine International Airlines | 176 |
14 | 2020/02/05 | Boeing 737-86J (WL) | TC-IZK | Pegasus Airlines | 3 |
15 | 2020/08/07 | Boeing 737-8HG (WL) | VT-AXH | Air India Express | 21 |
このうち、明らかに今回の事故に関係なさそうな犯罪に関わるのは8番, 12番と13番である。8番はクルド系テロ組織が起こした爆破テロでの死亡事故、12番はハイジャック犯が警察に殺されたもの、13番はイランの軍隊のミサイルで撃ち落とされたものである。
また、離着陸の事故も今回の事故とは関係なさそうである。1番は滑走路を逸脱した飛行機が一般道にはみ出し、車に乗っていた6歳の男の子が死亡したという事件。3番はClimb中にパイロットが手を放し、機体が傾いて墜落した事故。6番は着陸後に滑走路逸脱。7番は着陸失敗。11番も着陸失敗。14番は滑走路逸脱。15番も滑走路逸脱。
2番は空中衝突で落ちた飛行機。10番はエンジンローターバーストにより窓が外れ、窓から吸い出された乗客が一人死亡した事故。エンジンローターバーストは今回の事故でもあり得るものの、今回のような結末になるかは疑問。
原因が分かっていないのは4番, 5番, 9番か。そう思いきや、意外とほぼ原因は確定しており、4番はRadio Altが故障したためにAuto throttleが上空でRetardしてしまい、Flight Pathが落ちたのに気付くのが遅れたという事故。5番はClimb中のパイロットの操作ミスおよびCRM(ただしエチオピア航空は否定している)が原因とされているが、他の原因もありうりそう。9番Go-around後のピッチコントロールが悪く、Loss of control。
これらを見ていくと、今回のようにCruise中にいきなりというパターンはあまり見られない。そう考えると、737-800特有の何かが悪いという可能性はそれほど高くなさそう(あるかもしれないが連続して起こっているような事故ではない)。
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