C*Uとは何か その2 (横の制御則)

日紀

C*Uとは縦の制御則(Pitch Axis)に関するものなので、本来は横・方向の制御則とは関係ない。ただ、前回、制御則について縦だけ説明しており(C*Uとは何か その1(技術的解説)、横を説明しないというのも不完全なので、横・方向についてもFly-By-Wireの旅客機でどのような制御則が使われているかを説明する。

横の操縦とは

横の操縦と言った場合、旅客機に関して言えば通常はエルロンおよびスポイラのことを指す。通常の飛行機では、操縦席にある操縦桿とエルロンもしくはスポイラがつながっており、操縦桿を回すことでエルロンが動く。下記の絵がわかりやすい。

セスナ172のエルロンコントロール概略図 (引用元:CFI Notebook.net)

旅客機でも基本的にはこの仕組みである。油圧でアシストしているものが多いが、それでも基本的には操縦桿を回せばエルロンもしくはスポイラがその分だけ動く仕組みだ。これだとわかりやすい。

Fly-By-Wireの飛行機でも、このパターンもある。すなわち、LVDTRVDTが操縦桿やペダルの操縦量や角度を拾ってくるのはFly-By-Wireならではだが、実際には操縦桿やペダルを動かしただけアクチュエータがエルロンやスポイラを動かすものである。たとえば、操縦桿を15度回したら、エルロンが10度動く、みたいな1対1の関係になっているものだ。これもわかりやすい。

一方、もう少し高級なことを考えることもできる。パイロットが実際にやりたいのは、操縦桿で「エルロンを動かしたい」わけではなく、「機体をバンクさせて旋回したい」わけだ。そう考えると、Fly-By-Wireの場合、エルロン何度という操縦ではなく、どのくらい機体をロールさせるかを決めればよいことになる。操縦桿を回したとき、たとえば10deg/sでロールするようにエルロンをいい感じで動かすというような制御だ。この部分を担当するのが横の制御則である。

方向の操縦とは

旅客機について方向の操縦と言った場合、ラダーの操縦のことを指す。これも図を見たほうがわかりやすい。

セスナ172のラダーコントロール概略図 (引用元:CFI Notebook.net)

操縦席のしたのほうにラダーペダルがある。下の写真の赤丸の場所(暗くて見えにくいが)は実際のセスナ172のラダーペダルである(右席)。見えている脚は筆者の脚。

このラダーペダルを踏むと、線でつながっているため、垂直尾翼の後ろにあるラダーが動く仕組みである。旅客機でも基本的にはこの関係は変わらず、ペダルを踏むことでラダーが動く。ただし、さきほどの横の操縦と同じく、Fly-By-Wireの飛行機の場合は、単純な関係が必要なわけではない。

ラダーペダルを踏むときは限られており、(1)旋回時にCoordinated Turnをするために踏む、(2)横風着陸時に機首を滑走路の方位に合わせるために踏む、(3)エンジンが二個以上ついている飛行機で一つのエンジンが停止した場合に踏む、である。これらはどれもSideslip(横滑り角)を作り出すことが目的としてラダーを踏んでいるため、重要なのはSideslipを作りだすことだ。この機能を担当するのが方向の制御則である。

P-Beta制御則とは

実際の旅客機の横・方向の制御則はどうなっているのか。伝統的には、単に油圧のアシストがあるだけで、操縦桿を回せばエルロンが動き、ラダーペダルを踏めばラダーが動くという仕組みだ。これは最近までかなり用いられてきた。

たとえばBoeing 777は縦の制御則としてC*Uを採用しており、Fly-By-Wireの飛行機であるが、横・方向のコントロールは以前のままだった。つまりは操縦桿を回せばエルロンが動き、ラダーペダルを踏めばラダーが動く仕組みだ。速度によってギア比を変えているが、基本的にはこの仕組みである。

A320は、その1でも解説したとおり、旅客機としてはFly-By-Wireを本格的に導入した最初の飛行機である。A320は横の制御則としてpコマンド(ロールコマンド)を使っている。つまりは次のような感じだ。

  • パイロットが操縦桿を回すと、最終的にはエルロンとスポイラが動くのは以前と同じ
  • ただし、内部はそれまでの飛行機とかなり違う。操縦桿を回すと、pコマンド(ロールレートコマンド)が出る。pというのはロールレートのこと。
  • たとえば、操縦桿を15度回すとする。そうするとpコマンド、たとえば5deg/sが出る。そうすると、機体はいまのロールレートとロールレートコマンドを比較して、フィードバックの制御をおこなう。
  • たとえばいまのロールレートが4deg/sだったら、機体はもう少し大きくエルロンとスポイラを動かすようにするだろうし、ロールレートが6deg/sだったら、若干エルロンとスポイラの角度を小さくする。
  • 操縦桿をはなすと、そのバンク角を維持する。例えばバンク15度で操縦桿を放せば、そのまま15度が保たれる。ニュートラルなスパイラルスタビリティである。

このpコマンドの制御はその後他の旅客機にも多く使われている。A380、A340、A350もそうだし、Boeingは787にこの制御則を用いている。

この制御則は従来のエルロンやスポイラを直接コントロールするやり方と結局はあまり変わらない(C*と従来型の飛行機の差に比べると)。従来の飛行機でも、操縦桿を回した際にエルロンが動くが、一定時間経過すると、あとは一定のロールレートに落ち着く。縦の操縦のように速度変化が入ってこないので、分かりやすい。

縦の制御則同様、この制御則はProtection機能とともに使われる。Bank Protectionと言われ、ある一定のバンク角を超えないように制御されている。例えば、バンク角が大きい(例えば50度)ときには、何も操縦しなくともバンクが徐々に小さくなる(スパイラルスタビリティ)ようになっている。

一方、方向の操縦に関して、A320や787はβコマンドを使っている。これは次のような感じだ。

  • パイロットがペダルを踏むと、最終的にはラダーが動くのは従来と同じ
  • ただし、実際には、ペダルを踏むことでβコマンドが出る。たとえばβ=5degを出しなさいという感じのコマンドだ。
  • 機体はターゲットとなるβコマンドになるように、いい感じにラダーを操作する。
  • 具体的な例でいうと、たとえば横風着陸のデクラブ時、パイロットは滑走路に機首を向けるため、ペダルを踏む。その際に、ペダルを2インチ踏んでいれば、それは機体にとっては8degのβを出すというように解釈され、ラダーはβが8degになるように動く。

このように、ロール軸と同様、フィードバック制御される。若干違うのは、ラダーが他の役割も担っている点である。Fly-By-Wireの機体の場合、ラダーはペダルを踏む以外にも次の場合に動く(実際にはFly-By-Wireじゃなくてもこれらの機能は工夫して実現されている場合がある点に注意)。

  • ヨーダンパ:機体の横・方向の揺れを止めるべく、pやrのフィードバックでラダーを動かす
  • ターンコーディネーション:通常、機体を旋回させるときはラダーペダルを踏む必要がある(アドバースヨーを消すため)。Fly-By-Wireの機体の場合、いい感じに勝手にラダーが動き、Slip/Skidを止めてくれる。
  • Thrust Asymmetry Compensation: 777などが持っている機能で、片側のエンジンが止まった場合に、自動的にラダーを動かす

ロールともう一つ異なる点は、Sideslipの計測である。ロールレートのフィードバックに使うpはIRS(BoeingやAirbusの場合ADIRU)のジャイロで計測できる。ところが、βはそうはいかない。A350はこのβの計測のために、わざわざセンサを3つもコックピット前に付けている。

A350 Wikipediaより引用

Boeingの場合、このβの計測のためのセンサはついていない。おそらく、左右の静圧差、左右のAoAセンサの差、Nyなどを使ってβを作り出していると思われる(しっている人いたら教えてください)。

ここまで見てきたように、ロール軸はpコマンド、ヨー軸はβコマンドを使うので、Boeingはこの制御則のことをP-Betaコマンドと呼んでいる。AirbusとBoeingでC*とC*Uと縦では異なる制御則だった反面、横ではほぼ同じである。

参考文献

  1. Airbus, A380-800 Flight Deck and Systems Briefing for Pilots Flight Deck and Systems Briefing for Pilots Issue 02 – March 2006
  2. Airbus, Operational Liaison Meeting – FBW aircraft RUDDER and LOADS
  3. Tom Dodt, ISASI September, 2011, Introducing the 787 – Effect on Major Investigations – And Interesting Tidbits
  4. Bjorn’s Corner: C Series flight controls https://leehamnews.com/2016/04/29/bjorns-corner-c-series-flight-controls/
  5. Bjorn’s Corner: Flight control, Part 3 https://leehamnews.com/2016/03/25/bjorns-corner-flight-control-part-3/
  6. Xavier Le tron, A380 Flight Controls overview

 

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