2019年めっちゃ面白かった本10選

日紀

今年はよく本を読んだ1年であった。合計60冊の本を読んだ。そのうち、特に面白かった本、とりわけ自分に影響を与えた本を年の瀬にまとめる。この10冊を選ぶのにはかなり苦労した。そもそも本を選ぶ時点でかなり面白そうな本を選んでいるので、それほど極端なハズレというのがない。この中に選ばなかった本でも、面白くないというわけではなく、全然おすすめである。

脳を鍛えるには運動しかない ジョン J. レイティ

すでに別記事で感想を書いた。運動をすることでどれだけ多くの問題が解決するのか、ということが豊富な例示を持って語られる。運動をして頭がよくなった高校のプログラム、運動をすることで精神疾患がよくなった例など。人は運動するようにプログラムされており、じっとしていることがいかに体によくないか、もしくは自分のパフォーマンスを損なっているかがわかる。頭脳労働者ほど運動をしないとだめなのだ。

剱岳 新田次郎

これはめちゃくちゃ面白かった。測量エンジニアである主人公が何とかして劔岳に上る話。いままで誰も到達したことのない山に、日露戦争後という時代に、仲間を集め、迷信を蹴散らし、幾多の準備を重ねて挑む。そして上りついた先にあったものにも心を動かされる。この本を読んで、自分もいつか劔岳に上って、柴崎芳太郎や宇治長次郎がみた景色を眺めてみたいと思うようになった。

人体600万年史:科学が明かす進化・健康・疾病 ダニエル・E・リーバーマン


人類の長い歴史はそのほとんどが狩猟採集の時代であり、農耕がはじまったのはほんの最近にすぎない。人体は農作物を食べることに完全に適応しておらず、現代人々を悩ませている多くの疾患は農耕という「悪魔の実」を食べた代償であるという。これが本書を貫くテーマである。個人的に面白かったのは、人類が他の動物に比べて何が優れているのか、ということ。答えは持久走である。他の動物に比べ、極端に長時間運動することができる。

小さな習慣  スティーヴン・ガイズ


すでに感想を書いた。どんなに小さな習慣でもよいから、ずっと続けることがいかに重要か、ということをひたすら説いた本。これに影響されて毎日20個英単語を覚えることにした結果、いまでは5000語程度覚えることができた。来年も小さな習慣を続けていきたい。

交雑する人類 デイビッド・ライク

人類はアフリカで誕生し、どのようにして世界に拡散したのかを核DNA解析により鮮やかに描き出した本。これを読むと、人種とか民族とかいう概念は流れる川の一面を写真で撮ったような一瞬のできごとであることがわかる。人はアフリカから出てその地にたどり着いたあと定住して現在の土地に住み着いたという単純なモデルではなく、行ったり来たり、征服されたり絶滅したりして交雑している。遺跡や古代の墓から出土した骨を削り、それをDNA解析する技術の破壊的進歩により、人が行ったり来たりしていることが急速にわかってきた。

少し興味深かったのが、前から言われていることだが、歴史上男女差が遺伝子に残っていることがわかることだ。例えば、モンゴル帝国を気づいたチンギス・ハーン一族の遺伝子はユーラシア大陸全体に渡って広く分布しており、少数の男系遺伝子がとてつもなく多くの子孫を残した例である。また、アメリカに住んでいるアフリカ系アメリカ人は、20-25%ヨーロッパ系の遺伝子を持っているが、これはほとんどが男系である。つまり、白人を父とし、アフリカ系を母とした子孫がいるパターンが非常に多いということだ。

空飛ぶタイヤ 池井戸潤


空飛ぶタイヤは前に映画で見て、半分くらい忘れた状態で今回本を読んだ。業務用トラックのタイヤが走行中に外れ、それで通行人が亡くなってしまうところから話が始まる。三菱自動車の実際の事件をもとにしている。この本では、最終的には勧善懲悪で話がまとまるが、実際には仕組みが狂っていることから生じる。おかしいところは、下記である。

  • 設計の可否を判断するのが設計した会社であること。三菱自動車が起こした設計ミスをその当事者に調べされたら偽装するように仕向けているようなものだ。
  • 警察がものごとを犯罪として操作すること。犯罪として操作することで、誰が加害者で誰が被害者かを決めなければならず、かつその結果が将来の事件を防ぐものにならない。

起きてしまったことを、未来に活かすため仕組みがまるで機能していない。本来は、下記が必要である。

  • 第三者機関が独立した立場で、将来に向けてどうするべきかを各組織に伝える。現在はこの手の事故を調べる事業用自動車事故調査委員会があるがこれも国土交通省の下に存在しており片手落ちである。
  • 第三者機関が独立した立場で調査するために、懲罰と調査を切り離す。警察が捜査し誰かを牢屋に閉じ込める方式を取る限り、物事を隠すインセンティブを与えるだろう。捕まらないように隠しておこうとするわけである。

強火をやめると、誰でも料理がうまくなる 水島弘史

これは目から鱗の本である。結婚してからよく料理をするようになって、いままで強火が料理のおいしさの秘訣かと勘違いしていた。弱火で調理することになって、焦げ付かせることも減ったし、おいしい料理が作れるようになった。こんなにも強火と弱火で素材の味が変わってくるとは思わなかった。また、自分の包丁技術がイマイチなことがわかった。今後の人生で機会があれば包丁技術を学びたい。

疫病と世界史 ウィリアム・H・マクニール


疫病がどのように世界に影響をもたらしたかを書いた本。世界史と言うと戦争とか、帝国の勃興と衰退とか、芸術や文化の生まれ変わりやそういったもののイメージである。ところが、この本で伝えてくれるのはそのような世界史の表舞台だけではなく、その裏で疫病がどのような役割を果たしたか、である。

興味深かった点の一つは、そこには先行者利益が存在するという点である。病原体と人が最初に出会った時は著しい反応を引き起こす。例えば、ペストは初めヨーロッパ人と出会った時にヨーロッパ人に絶望的な被害をもたらした。ものすごい人口がペストによって失われたのである。しかしその後は人がペストに勝ったり負けたりをしながらそれに対する免疫を獲得していた。一度その命をかけて免疫を獲得した後は、その免疫はその民族にとっての資産になる。免疫を持ったまま、その民族が他の地域に攻め込んだり、もしくは他の地域からその地域に攻め込まれたりした時に、免疫を持っていない民族はその病原体によってやられてしまうのである。祖先がもたらした被害が積み上がってその民族を守ってくれる糧となるのは興味深い。

史上最も強く威力を発揮した病原体の一つが、アメリカ大陸によるアメリカ原住民とヨーロッパ人の戦いである。アメリカ大陸で、インカ帝国やアステカ帝国などの巨大な帝国は、スペインやヨーロッパ系の人が来ることでほとんど絶滅してしまった。もちろん絶滅した理由は、必ずしも病原体だけのせいではなく、戦争による死者や虐殺などもあったであろうが、最も強かったのは疫病である。アメリカ大陸はユーラシア大陸に比べると大きさが小さく、それ故病原体の多様性も小さく、持っていない免疫もとても多かったのだ。

なぜ私だけが苦しむのか – 現代のヨブ記 H.S. クシュナー

心が洗われる本である。作者をユダヤ教のラビで、病気により息子を若くして亡くしてしまう。

もし、ある人が神がすべてを与えたと信じていたとする。すると、神は何らかの意図を持ってその人に苦しみを与えてるということになる。たとえば、神がその息子を死なせたのは、本人を成長させるためであるとか、その悲しみに耐えられると判断したからとか、いろいろ考えうる。しかし、普段そのような説法をしている聖職者であったとしても、実際にその立場になってみると、なぜその人はそのような仕打ちを受けなければならないのか、その人はなぜ苦しまなければならないのか、その答えが出ず一生苦しむことになるのである。

その回答として作者がはみ出した答えは、神は必ずしもそのような全能な存在ではないということである。神が世界を作り、人類を作ったが、人それぞれの運命を意思を持って与えているわけでもないし、その意図を乗り越えることで人が成長しようとしているわけでもない。

私はユダヤ教徒でもキリスト教徒でももしくは他の一神教の宗徒でもないので、神の存在という話はそれほどストレートに自分の中に理解できるわけではない。それでも、多くの示唆を与えてくれる本だった。

あの頃ぼくらはアホでした 東野圭吾

東野圭吾の若いころのめちゃくちゃの話が書かれてる非常に面白い本。雰囲気としては初期の椎名誠の話に若干似ている。とんでもない中学校の話や、合法だろうが違法だろうが何でも突き進んで行く話、とんでもないアーチェリー部の話など、読んでいてまったく飽きるところがない。こういう感じの話は昭和じゃないと生まれなかったであろう。2020年現在ならTwitterで炎上しそうだ。

異文化理解力 エリン・メイヤー


すでに感想を書いた。特に日本生まれで他の国で働く、またはほかの国から来た人と働く際にめちゃくちゃおすすめできる本である。

最後に2019年に読んだ本リストを載せておく。

「納品」をなくせばうまくいく
HARD THINGS
HIGH OUTPUT MANAGEMENT(ハイアウトプット マネジメント) 人を育て、成果を最大にするマネジメント
MBAより簡単で英語より大切な決算を読む習慣
アイヌ文化で読み解く「ゴールデンカムイ」 (集英社新書)
アドラー心理学入門―よりよい人間関係のために (ベスト新書)
あの頃ぼくらはアホでした (集英社文庫)
イギリス人アナリスト 日本の国宝を守る 雇用400万人、GDP8パーセント成長への提言 (講談社+α新書)
グラスホッパー (角川文庫)
スタンフォードの自分を変える教室
スタンフォード式 疲れない体
スノーピーク「好きなことだけ! 」を仕事にする経営
ドキュメント 滑落遭難 (ヤマケイ文庫)
ドキュメント 道迷い遭難 (ヤマケイ文庫)
なぜ、あなたの仕事は終わらないのか
なぜ私だけが苦しむのか―現代のヨブ記 (岩波現代文庫)
はじめての哲学的思考 (ちくまプリマー新書)
ぼくは愛を証明しようと思う。 (幻冬舎文庫)
ホンダジェット: 開発リーダーが語る30年の全軌跡
マークスの山(下) (講談社文庫)
マークスの山(上) (講談社文庫)
マネーの進化史 (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)
もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら
ヤバい統計学
ワーク・ルールズ! ―君の生き方とリーダーシップを変える
異文化理解力 ― 相手と自分の真意がわかる ビジネスパーソン必須の教養
一歩ずつの山歩き入門
疫病と世界史 下 (中公文庫 マ 10-2)
疫病と世界史 上 (中公文庫 マ 10-1)
核DNA解析でたどる 日本人の源流
逆転した日本史~聖徳太子、坂本竜馬、鎖国が教科書から消える~ (扶桑社新書)
虚構推理 (講談社タイガ)
強火をやめると、誰でも料理がうまくなる! (講談社+α文庫)
筋トレが最強のソリューションである マッチョ社長が教える究極の悩み解決法
空飛ぶタイヤ(下) (講談社文庫)
空飛ぶタイヤ(上) (講談社文庫)
幻夜 (集英社文庫)
交雑する人類―古代DNAが解き明かす新サピエンス史
妻のトリセツ (講談社+α新書)
史上最強の人生戦略マニュアル
酒池肉林―中国の贅沢三昧 (講談社現代新書)
出世する人の英語 アメリカ人の論理と思考習慣 (幻冬舎新書)
小さな習慣
情報なき国家の悲劇 大本営参謀の情報戦記 (文春文庫)
新装版 劒岳 ―点の記 (文春文庫)
神話で読みとく古代日本: 古事記・日本書紀・風土記 (ちくま新書1192)
人はなぜ不倫をするのか (SB新書)
人体600万年史(下):科学が明かす進化・健康・疾病
人体600万年史(上):科学が明かす進化・健康・疾病
世界システム論講義: ヨーロッパと近代世界 (ちくま学芸文庫)
世界の非ネイティブエリートがやっている英語勉強法
世界史とつなげて学べ 超日本史 日本人を覚醒させる教科書が教えない歴史
痛風はビールを飲みながらでも治る! 改訂版 (小学館文庫)
日本人が海外で最高の仕事をする方法――スキルよりも大切なもの
日本人になった祖先たち DNAから解明するその多元的構造 (NHKブックス)
入門 考える技術・書く技術――日本人のロジカルシンキング実践法
脳を鍛えるには運動しかない! 最新科学でわかった脳細胞の増やし方
貧乏はお金持ち──「雇われない生き方」で格差社会を逆転する (講談社+α文庫)
米国人一家、おいしい東京を食べ尽くす
放課後 (講談社文庫)
夢をかなえるゾウ

コメント

  1. […] そんな中でも数十冊本を読んだので、紹介する。めちゃくちゃ本を読んだ2019年に比べると選球眼がだいぶ甘くはなってしまった。 […]