今年はよく本を読んだ1年であった。合計60冊の本を読んだ。そのうち、特に面白かった本、とりわけ自分に影響を与えた本を年の瀬にまとめる。この10冊を選ぶのにはかなり苦労した。そもそも本を選ぶ時点でかなり面白そうな本を選んでいるので、それほど極端なハズレというのがない。この中に選ばなかった本でも、面白くないというわけではなく、全然おすすめである。
脳を鍛えるには運動しかない ジョン J. レイティ
すでに別記事で感想を書いた。運動をすることでどれだけ多くの問題が解決するのか、ということが豊富な例示を持って語られる。運動をして頭がよくなった高校のプログラム、運動をすることで精神疾患がよくなった例など。人は運動するようにプログラムされており、じっとしていることがいかに体によくないか、もしくは自分のパフォーマンスを損なっているかがわかる。頭脳労働者ほど運動をしないとだめなのだ。
剱岳 新田次郎
これはめちゃくちゃ面白かった。測量エンジニアである主人公が何とかして劔岳に上る話。いままで誰も到達したことのない山に、日露戦争後という時代に、仲間を集め、迷信を蹴散らし、幾多の準備を重ねて挑む。そして上りついた先にあったものにも心を動かされる。この本を読んで、自分もいつか劔岳に上って、柴崎芳太郎や宇治長次郎がみた景色を眺めてみたいと思うようになった。
人体600万年史:科学が明かす進化・健康・疾病 ダニエル・E・リーバーマン
人類の長い歴史はそのほとんどが狩猟採集の時代であり、農耕がはじまったのはほんの最近にすぎない。人体は農作物を食べることに完全に適応しておらず、現代人々を悩ませている多くの疾患は農耕という「悪魔の実」を食べた代償であるという。これが本書を貫くテーマである。個人的に面白かったのは、人類が他の動物に比べて何が優れているのか、ということ。答えは持久走である。他の動物に比べ、極端に長時間運動することができる。
小さな習慣 スティーヴン・ガイズ
すでに感想を書いた。どんなに小さな習慣でもよいから、ずっと続けることがいかに重要か、ということをひたすら説いた本。これに影響されて毎日20個英単語を覚えることにした結果、いまでは5000語程度覚えることができた。来年も小さな習慣を続けていきたい。
交雑する人類 デイビッド・ライク
人類はアフリカで誕生し、どのようにして世界に拡散したのかを核DNA解析により鮮やかに描き出した本。これを読むと、人種とか民族とかいう概念は流れる川の一面を写真で撮ったような一瞬のできごとであることがわかる。人はアフリカから出てその地にたどり着いたあと定住して現在の土地に住み着いたという単純なモデルではなく、行ったり来たり、征服されたり絶滅したりして交雑している。遺跡や古代の墓から出土した骨を削り、それをDNA解析する技術の破壊的進歩により、人が行ったり来たりしていることが急速にわかってきた。
少し興味深かったのが、前から言われていることだが、歴史上男女差が遺伝子に残っていることがわかることだ。例えば、モンゴル帝国を気づいたチンギス・ハーン一族の遺伝子はユーラシア大陸全体に渡って広く分布しており、少数の男系遺伝子がとてつもなく多くの子孫を残した例である。また、アメリカに住んでいるアフリカ系アメリカ人は、20-25%ヨーロッパ系の遺伝子を持っているが、これはほとんどが男系である。つまり、白人を父とし、アフリカ系を母とした子孫がいるパターンが非常に多いということだ。
空飛ぶタイヤ 池井戸潤
空飛ぶタイヤは前に映画で見て、半分くらい忘れた状態で今回本を読んだ。業務用トラックのタイヤが走行中に外れ、それで通行人が亡くなってしまうところから話が始まる。三菱自動車の実際の事件をもとにしている。この本では、最終的には勧善懲悪で話がまとまるが、実際には仕組みが狂っていることから生じる。おかしいところは、下記である。
- 設計の可否を判断するのが設計した会社であること。三菱自動車が起こした設計ミスをその当事者に調べされたら偽装するように仕向けているようなものだ。
- 警察がものごとを犯罪として操作すること。犯罪として操作することで、誰が加害者で誰が被害者かを決めなければならず、かつその結果が将来の事件を防ぐものにならない。
起きてしまったことを、未来に活かすため仕組みがまるで機能していない。本来は、下記が必要である。
- 第三者機関が独立した立場で、将来に向けてどうするべきかを各組織に伝える。現在はこの手の事故を調べる事業用自動車事故調査委員会があるがこれも国土交通省の下に存在しており片手落ちである。
- 第三者機関が独立した立場で調査するために、懲罰と調査を切り離す。警察が捜査し誰かを牢屋に閉じ込める方式を取る限り、物事を隠すインセンティブを与えるだろう。捕まらないように隠しておこうとするわけである。
強火をやめると、誰でも料理がうまくなる 水島弘史
これは目から鱗の本である。結婚してからよく料理をするようになって、いままで強火が料理のおいしさの秘訣かと勘違いしていた。弱火で調理することになって、焦げ付かせることも減ったし、おいしい料理が作れるようになった。こんなにも強火と弱火で素材の味が変わってくるとは思わなかった。また、自分の包丁技術がイマイチなことがわかった。今後の人生で機会があれば包丁技術を学びたい。
疫病と世界史 ウィリアム・H・マクニール
疫病がどのように世界に影響をもたらしたかを書いた本。世界史と言うと戦争とか、帝国の勃興と衰退とか、芸術や文化の生まれ変わりやそういったもののイメージである。ところが、この本で伝えてくれるのはそのような世界史の表舞台だけではなく、その裏で疫病がどのような役割を果たしたか、である。
興味深かった点の一つは、そこには先行者利益が存在するという点である。病原体と人が最初に出会った時は著しい反応を引き起こす。例えば、ペストは初めヨーロッパ人と出会った時にヨーロッパ人に絶望的な被害をもたらした。ものすごい人口がペストによって失われたのである。しかしその後は人がペストに勝ったり負けたりをしながらそれに対する免疫を獲得していた。一度その命をかけて免疫を獲得した後は、その免疫はその民族にとっての資産になる。免疫を持ったまま、その民族が他の地域に攻め込んだり、もしくは他の地域からその地域に攻め込まれたりした時に、免疫を持っていない民族はその病原体によってやられてしまうのである。祖先がもたらした被害が積み上がってその民族を守ってくれる糧となるのは興味深い。
史上最も強く威力を発揮した病原体の一つが、アメリカ大陸によるアメリカ原住民とヨーロッパ人の戦いである。アメリカ大陸で、インカ帝国やアステカ帝国などの巨大な帝国は、スペインやヨーロッパ系の人が来ることでほとんど絶滅してしまった。もちろん絶滅した理由は、必ずしも病原体だけのせいではなく、戦争による死者や虐殺などもあったであろうが、最も強かったのは疫病である。アメリカ大陸はユーラシア大陸に比べると大きさが小さく、それ故病原体の多様性も小さく、持っていない免疫もとても多かったのだ。
なぜ私だけが苦しむのか – 現代のヨブ記 H.S. クシュナー
心が洗われる本である。作者をユダヤ教のラビで、病気により息子を若くして亡くしてしまう。
もし、ある人が神がすべてを与えたと信じていたとする。すると、神は何らかの意図を持ってその人に苦しみを与えてるということになる。たとえば、神がその息子を死なせたのは、本人を成長させるためであるとか、その悲しみに耐えられると判断したからとか、いろいろ考えうる。しかし、普段そのような説法をしている聖職者であったとしても、実際にその立場になってみると、なぜその人はそのような仕打ちを受けなければならないのか、その人はなぜ苦しまなければならないのか、その答えが出ず一生苦しむことになるのである。
その回答として作者がはみ出した答えは、神は必ずしもそのような全能な存在ではないということである。神が世界を作り、人類を作ったが、人それぞれの運命を意思を持って与えているわけでもないし、その意図を乗り越えることで人が成長しようとしているわけでもない。
私はユダヤ教徒でもキリスト教徒でももしくは他の一神教の宗徒でもないので、神の存在という話はそれほどストレートに自分の中に理解できるわけではない。それでも、多くの示唆を与えてくれる本だった。
あの頃ぼくらはアホでした 東野圭吾
東野圭吾の若いころのめちゃくちゃの話が書かれてる非常に面白い本。雰囲気としては初期の椎名誠の話に若干似ている。とんでもない中学校の話や、合法だろうが違法だろうが何でも突き進んで行く話、とんでもないアーチェリー部の話など、読んでいてまったく飽きるところがない。こういう感じの話は昭和じゃないと生まれなかったであろう。2020年現在ならTwitterで炎上しそうだ。
異文化理解力 エリン・メイヤー
すでに感想を書いた。特に日本生まれで他の国で働く、またはほかの国から来た人と働く際にめちゃくちゃおすすめできる本である。
最後に2019年に読んだ本リストを載せておく。
コメント
[…] そんな中でも数十冊本を読んだので、紹介する。めちゃくちゃ本を読んだ2019年に比べると選球眼がだいぶ甘くはなってしまった。 […]