オミクロン株ワクチンはどれを打ったらいいのかメモ

日紀

新型コロナウイルスワクチンの新しい接種券がきた。ついに5回目である。今回はオミクロン株に対応した2価ワクチンである。しかしどれを選べばいいのかよくわからない。いまある選択肢は下記のとおり

  1. ファイザー2価(従来株/BA1)
  2. ファイザー2価(従来株/BA5)
  3. モデルナ2価(従来株/BA1)
  4. モデルナ2価(従来株/BA5)

このうち、ワクチン4に関しては11月1日に特例承認が下りたばかりで、まだそこらへんの医者で打てるようになっていない模様である。また、ワクチン1とワクチン2に関してはもともとここ数か月ワクチン1が使われていたものの、徐々にワクチン2に置き換わっており、たとえばワクチン1を打ちたいと思ってもそもそももうありませんという感じになりつつある。

そうはいってもまだ選択肢があるので、どれを打つべきか調べたことをメモする。

感染状況

このあとどの株が来るのかによっても何を打ったほうがいいかは変わる。現在の完全状況は、たとえば東京都のゲノム解析結果(10月27日)は次のとおり。

東京のゲノム解析結果(https://www.fukushihoken.metro.tokyo.lg.jp/iryo/kansen/corona_portal/henikabu/screening.html)

だいたいBA5だが、徐々に置き換わりつつあり、BA.2.75、BF.7、BQ.1、BQ.1.1などに置き換わりつつある。このあとどの株が来るのか他の国も見てみる。たとえばNew York州のWebsiteによると、次の通り(10月29日)。

ニューヨーク州のWebsiteのデータ(https://coronavirus.health.ny.gov/covid-19-variant-data)

ここではBA5はもう末期という感じで、BQ.1(23.5%)、BQ.1.1(19%)、BQ.5.2.6、BF.7などに急激に置き換わりつつある。イギリスのデータは次のとおり。

イギリスのデータ(PDF:https://assets.publishing.service.gov.uk/government/uploads/system/uploads/attachment_data/file/1115077/Technical-Briefing-47.pdf)

これもBQ.1やBQ.1.1などが伸びてきている。シンガポールのデータを見てみる。

シンガポールのデータ(https://www.moh.gov.sg/news-highlights/details/update-on-covid-19-situation-and-measures-to-protect-healthcare-capacity)

シンガポールは他の国と異なり、XBBが急激に伸びていることがわかる。BA4/5はもう末期という感じだ。

これらをまとめると次の通り。

  • BA.1はもうどこも流行ってない
  • BA.5は日本ではまだ大部分で流行っているもののBQ.1やBQ.1.1などに置き換わりつつある。日本以外ではBQ.1やBQ.1.1、XBBなどが急激にシェアを伸ばしており、日本もそのうちそうなることが予想される。
  • これらのことから、この秋から冬にかけてはBA.5に加え、BQ.1やBQ.1.1などに強いワクチンを打つとよい。

ワクチンの効果

ファイザーとモデルナの違い

一見、ファイザーとモデルナは同じように見えるが、実際には中身がちょっと違い、それに伴い効果もちょっと違う。ブースターの場合、量(有効成分の量)は次のとおり。

  • ファイザー:30μg
  • モデルナ:50μg

モデルナのほうが量が多いので脳筋的に考えるとモデルナのほうが効きそうである。一方でモデルナは1回目と2回目は100μgだったのでそれよりはこのブースターは量が少なく、そう考えると差は小さそうである。量だけで優劣を決めるのはあまりにもひどいのでもう少し調べる。

BA.5にはBA.5用の2価ワクチンが効くのか?

単純に考えると、BA.5に罹らないためには、もしくは重症化しないためには、BA.5のmRNAで作られたワクチンが効きそうだ。しかし人間の体はそれほど単純ではないのでどうなるかは実際のデータを見ないと分からなさそう。また、これから冬にかけてくるであろうBQ.1やBQ.1.1などに効くかも気になる。そこでデータを見てみる。調べてみた論文は次の通り。

キーとなるグラフは次の通り。

mRNA bivalent booster enhances neutralization against BA.2.75.2 and BQ.1.1 https://www.biorxiv.org/content/10.1101/2022.10.31.514636v1

縦軸は中和抗体価、横軸は各派生株。これを見ると、左端(1回のブースター接種)に比べ、2回のブースター接種(中央および右)は明らかに効いており、ブースターが効くことがわかる。また、中央(1価)と右(2価)を比べると、2価のほうがたとえばBQ.1.1に対しても抗体価が高い。これを見ると2価ワクチンが効きそう。

Antibody responses to Omicron BA.4/BA.5 bivalent mRNA vaccine booster shot https://www.biorxiv.org/content/10.1101/2022.10.22.513349v1

上の図の右から2番目が1価ワクチン4回接種、右端が1価ワクチン3回と2価ワクチン1回。これを見ると、たとえばBA.4/BA.5に対する抗体はできてはいるものの1価ワクチンと2価ワクチンであまり変わらない。左端の3回接種に比べるとどちらも抗体ができてるけど、4回目に何を打ったかであまり違いがないので、なんでもいいのでとにかく4回目を打ったほうがややよい、といった感じがする。

Immunogenicity of the BA.5 Bivalent mRNA Vaccine Boosters https://www.biorxiv.org/content/10.1101/2022.10.24.513619v1

左が1価ワクチン、右が2価ワクチン。たとえばBA.5への中和抗体価だと1価が2829のところ、2価だと3693でやや高いが全体的にそれほど変わらない感じがする。これも2価だとよさそうだがそれほどものによって差がなさそう。

Low neutralization of SARS-CoV-2 Omicron BA.2.75.2, BQ.1.1, and XBB.1 by 4 doses of parental mRNA vaccine or a BA.5-bivalent booster https://www.biorxiv.org/content/10.1101/2022.10.31.514580v1

左上が1価ワクチン、左下が2価ワクチン(BA.5)。BA.4/5に対しては抗体価が2価ワクチンのほうが高い。ただしこれから流行るであろうBQ.1.1に対しての中和抗体価は低そう。何を打ってもBQ.1.1には効かないのかもしれない。

これら4つの言っていることはそれぞれ違う。これは、元としているデータが違うこと、試験方法や対象となっている人が異なることが原因と思われる。

まとめ

現在の感染状況を見ると、ここから数か月はいままでの数か月と変わって、BQ.1やBQ.1.1などの変異株が流行りそうではあるが、それらに確実に効くワクチンはなさそう。また、BA.5用ワクチン(2価ワクチン)は必ずしも1価ワクチンに対して強力というわけではないが、1価ワクチンより劣るということもなく、ワクチンの回数を重ねることのメリットは大きい。

調べた結果結局何のワクチンを打てばよいのか分からなかったが、とりあえず何でもいいから打つと多少よいことがわかる。一方で冬にかけてBQ.1やBQ.1.1、XBBなど新しい株が支配的になって来た場合、既存のワクチンで得られた免疫は感染を避けるためにはあまり効かなさそうなので、ワクチンを打ってもリスクを取る行動は避けたほうがよさそう。まだBA.5メインならある程度リスクを取れそうだが1月くらいになってワクチンが効かなさそうなのが増えてきたら感染状況が悪化しそうだし、リスクを取ると感染しそう。

追記(2022年11月16日)

いくつか新しいデータを見たので追加する。下記の3つ。

  • Pfizerのプレスリリース Pfizer and BioNTech Announce Updated Clinical Data for Omicron BA.4/BA.5-Adapted Bivalent Booster Demonstrating Substantially Higher Immune Response in Adults Compared to the Original COVID-19 Vaccine
  • Modernaのプレスリリース Moderna’s BA.4/BA.5 Targeting Bivalent Booster, mRNA-1273.222, Meets Primary Endpoint of Superiority Against Omicron Variants Compared to Booster Dose of mRNA-1273 in Phase 2/3 Clinical Trial
  • Novavaxのプレスリリース Novavax Phase 3 COVID-19 Omicron Trial Supports the Continued and Future Use of Novavax Prototype Vaccine as a Booster

Pfizerのプレスリリースによれば、4回目接種として従来型ワクチンを打った場合と2価ワクチンを打った場合の抗体価を比較していて、2価ワクチンのほうがBA.4/5に対する抗体価が3-4倍だった。これはいままで見た2価ワクチンの効果としてはかなり高いほうで、もしこれが本当ならかなりpromisingである。

Modernaのプレスリリースも同じような結果で、従来型接種者と2価ワクチン接種者で抗体価を比較していて、2価ワクチンで5-6倍の抗体価が得られたとの結果。これはPfizerの件同様promisingだが、一方でBQ.1.1への抗体価は上昇しているもののBA.4/5への抗体価に比べ1/5で、効果がどのくらいあるか微妙。

Novavaxの2価ワクチンのプレスリリースは少し観点が違う。従来型接種者と2価ワクチン接種者で比較しているが、BA.4/5への抗体価では2価ワクチンの優位性を示せず。Novavaxの2価ワクチンはまだ承認されておらず、治験中。

個人的には11月8日に5回目接種をした。Pfizer/BioNTechのBA.4/5ワクチンにした。副反応はほぼなし。体温が0.1degCくらい上がって、若干夜眠くなった程度(ぽかぽかしてよく眠れた)。6回目が待ち遠しい。

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