今年はアメリカに引っ越してきたので本をよく読む年であった。アメリカというよりは車移動が多くなるとAudibleで本を読む時間が増えるということに起因している。今年読んだ本は次の通り。
- ウクライナ戦争, 小泉 悠, ちくま新書
- 感染症の世界史, 石 弘之, 角川ソフィア文庫
- 人生にお金はいくら必要か〔増補改訂版〕, 山崎 元,岩城 みずほ
- 魚の行動習性を利用する 釣り入門―科学が明かした「水面下の生態」のすべて, 川村 軍蔵, ブルーバックス
- 遺伝子のスイッチ: 何気ないその行動があなたの遺伝子の働きを変える, 生田 哲, 東洋経済新報社
- なぜヒトは学ぶのか 教育を生物学的に考える, 安藤 寿康, 講談社現代新書
- 教養としての 世界史の学び方, 山下 範久, 東洋経済新報社
- ナポレオン戦争:十八世紀の危機から世界大戦へ, マイク・ラポート, 白水社
- LIFESPAN(ライフスパン): 老いなき世界, デビッド・A・シンクレア,マシュー・D・ラプラント, 東洋経済新報社
- 蟹工船・党生活者, 小林 多喜二, 新潮文庫
- 怪人二十面相 (少年探偵), 江戸川 乱歩
- それから, 夏目 漱石, 岩波文庫
- 最終戦争論, 石原 莞爾, 中公文庫BIBLIO20世紀
- チベット旅行記(下), 河口 慧海, 講談社学術文庫
- チベット旅行記(上), 河口 慧海, 講談社学術文庫
- Humankind 希望の歴史 上 人類が善き未来をつくるための18章, ルトガー・ブレグマン, 文藝春秋
- 発達障害「グレーゾーン」 その正しい理解と克服法, 岡田尊司, SB新書
- 海の見える街, 畑野 智美, 講談社文庫
- 魚にも自分がわかる ――動物認知研究の最先端, 幸田 正典, ちくま新書
マンガとか、読みかけとか、子供の本を読んだのを含めるともっと多いような気がする。これらの中で特に面白かった本を下記で紹介する。
チベット旅行記 – 河口 慧海
100年以上も前、日本のお坊さんが鎖国中のチベットに何とかしてたどり着き、大学に入学し仏教を学び、なぜか医者として働きつつ最後には密入国であることがばれてギリギリ帰ってくるというお話。死ぬほど面白い。チベットにたどり着くまでの道筋も果てしなく、雪山で死にかけたり、チベット語を完璧に学んでチベット人のふりができるようになったり、盗賊や追剥にやられたり、中国人のふりをしてやり過ごしたり、すべてのエピソードがとんでもない。
ドキドキハラハラの連続であり、この100年以上前の時代にバイタリティのあふれるお坊さんがただひたすら仏教の修行のためにチベットに向かうのがすごい。当時の目線で書かれた様々な国の人や民族に対する見方もとても忖度なく面白い。チベットが多夫一妻制というのも知った。おすすめ。
LIFESPAN: 老いなき世界 – デビッド・A・シンクレア
遺伝子やエピジェネティクスについての話のあと、なんとかして若返りをできないかというのを研究し、いろいろな物質が若返りに効果があることがわかるが、特にNMN(ニコチンアミドモノヌクレオチド)が効くぞという話。老化は治療できる病気であり、若返りを果たすことによっていつまでも若々しく生きられるという。ほんとうかなと思うが、NMNが効くという話はかなり研究が進んできており、人々の手に広まるのも時間の問題かもしれない。もしくは、もっとよい物質が発見されて、というパターンもありそう。
日本人の今井眞一郎さん(ワシントン大学セントルイス)の話もちょくちょく出てくるので、本を読み終わったあとに調べてYoutubeで講演などを聞いた。シンクレアさんとはやや立場を異にするものの、NMNを摂取することでピンピンコロリの人生ができる可能性をさぐっているようだった。今後の研究に期待しつつ、NMNが安くなってきたら飲んでみたい。今は結構高い。
魚にも自分がわかる ――動物認知研究の最先端 – 幸田 正典
これもめちゃくちゃ面白い本だった。一般的に魚はあまり頭がよくなさそうに思われているが、実際に様々な実験によって魚はめちゃくちゃ頭がよいということを示した画期的な研究を紹介した本。たとえば、ホンソメワケベラという魚のお掃除をすることで有名な魚がいるが、このホンソメワケベラに鏡を見せて慣らしたあと、そのホンソメワケベラに寄生虫のようなマークをつけてもう一度水槽に放すと、鏡を見ることで、自分に寄生虫のようなものがついていることを確認し、それを石にこすり付けてとろうとし、さらにこすり付けたあとにちゃんと取れたかどうかを鏡でもう一回確認するという。
ぜひ読んでほしいが驚きの連続であった。筆者が持つ疑問や、それに対する実験のアプローチが分かりやすく素朴でとても面白い。この話に似た本として、「魚の行動習性を利用する 釣り入門」も面白かった。
なぜヒトは学ぶのか 教育を生物学的に考える – 安藤 寿康
人の何が遺伝的に決まって、何が環境要因で決まるのか。それを双子を用いた研究によって明らかにしていく本。いくつかの本で事前に知っていたことではあったが(たとえば「言ってはいけない 残酷すぎる真実 橘玲」や「これからの正義の話をしよう マイケル・サンデル」など)、驚くほど遺伝的に決まっていることが多いにも関わらず、現実の世界、特に教育ではそれがさもなかったかのようにシステムが作られているということが書かれている。
この本は主に教育にフォーカスを当てたものであるが、この著者はこの遺伝についての双子の研究をもとにいろいろな本を書いているので、ほかの本も読んでみたい。たとえば、「能力はどのように遺伝するのか ブルーバックス」など。
Humankind 希望の歴史 – ルトガー・ブレグマン
これも衝撃の本だった。果たして人は独善的で利己的な生物なのか、それとも利他的で自己犠牲もいとわない生物なのか。人類史といえば戦争の歴史であり、いま現在もロシアによるウクライナ侵攻やイスラエルによるガザ侵攻など枚挙に暇がなく、惨憺たる未来を見る人もいるであろうがこの筆者の意見は真逆である。下巻も読んでみたいがまだ読めていないので全部読んでからまた来年にでも感想を書きたい。
蟹工船 – 小林多喜二
プロレタリア文学で有名な蟹工船である。蟹工船がいかにつらいものかがこれでもと書かれておりつらくなってくる。寒い冬の北海道でいかに人が死んでいったかということがリアルに感じられる。物語としては、キャラ立ちの点でややパンチが薄い感じはした。カニが食べたくなった。
最終戦争論 – 石原 莞爾
これも有名な本であり昔から読みたいと思っていたもの。核兵器が作られる以前からそれを予言していたり、東洋と西洋がいかに対立するかなどが書かれており、その先を見通す力に圧倒させられる。もちろん当時のものの見方からいって現在には通じないところも多いが、基本的な部分でたとえば現在の中国対アメリカの覇権争いなどに観点を与える。
去年や一昨年はさぼっていて書いていなかったが、前に書いていたシリーズはこちら。
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