ユナイテッド航空で起きた737のラダーペダルジャムについて調べたNTSBの報告書が出ていたのを読んだのでメモ。起きたことは下記。
- 2024年2月6日 ユナイテッド航空1539便
- 機種:Boeing 737-8, N47280
- 場所:ニューアーク空港 (EWR)
- パイロットが着陸後にセンターラインを維持するためにラダーペダルを踏もうとしたが、固着していてニュートラル位置から動かなかった。パイロットは咄嗟の判断でチラーを使って方向をコントロールした。十分に低速になってからパイロットが思い切りペダルを踏んだらようやく固着が取れ、ペダルは動くようになった。
- けが人などはゼロ。ユナイテッド航空はただちに当該機体をオペレーションから外し、原因究明にかかった。
- 当該機体はユナイテッド航空がボーイングから受け取って1年しかたっていない新しい機体だった
本来チラーは低速地上走行時に使うものであり、着陸後の高速では使わない。パイロットが咄嗟にチラーを使い、それでなんとかできたからよかったが、悪い条件(たとえば横風が強い、エンジン故障など何か別の故障がある)がある場合は最悪滑走路から逸脱していたであろう。そういう意味の危険があった。
NTSBのレポートによると、この事故のあと、下記の分析を行った。
- ユナイテッド航空が当該機体で飛行試験を行ったところ、ラダーペダルジャムが再現したので、飛行試験をただちに中止した
- 調べてみると、コリンズが製造しているRudder rollout guidance actuator (SVO-730)が原因ということがわかった
- 当該アクチュエータを用いて飛行時の条件(低温)を再現したところ、固着が再現した
- 当該アクチュエータのベアリングの製造時に、シールを逆に取り付けていたことが判明。これにより、水分が内部に入り込み、低温環境下で凍ってしまうことが分かった
これにより、コリンズの製造時の欠陥によりこの事故が起きたことが分かった。下記は自分向けのFAQ。
- そもそもこのRudder rollout guidance actuatorとはどういう部品で通常は何をしているものなのか?
- 737はCAT IIIbのAutolandができるオプションがあり、それに使うためのアクチュエータである。
- CAT IIIbのAutolandとは何か?
- 要は自動着陸ができる仕組みであり、CAT IIIbの場合は飛行機がドスンと地上についたあともラダーを制御して滑走路真ん中を維持してくれる。
- ユナイテッド航空の737はCAT IIIbができるのか?
- できない。ユナイテッド航空の737はCAT IIIaまでしかできない。CAT IIIaはフレアまではやってくれるが、ロールアウト(地上滑走時のセンターライン維持)はやってくれない
- なぜCAT IIIbができないのになぜこのアクチュエータがついていたのか?
- ボーイングではCAT IIIbがいらない飛行機の場合もこのアクチュエータをつけて出荷している。ただし、電気的に作動しないようになっている
上記のとおり、特におもりにしかなっていなかった作動しないアクチュエータが固着し、事故になってしまったようだ。ユナイテッド航空はこの事実が判明したあと、当該アクチュエータがついていた機体からはすべて外してしまった。そもそも必要ないからである。
ボーイングはこの737を運航している会社に対し、上記の製造欠陥があることを通知した。ただし、特にアクチュエータを交換しろとか取り外せとかいう指示は出ておらず、今もこのアクチュエータをつけた飛行機は飛んでいるかもしれないらしい。そのため、今回NTSBはボーイングおよびFAAに対しより強い措置(より詳しい情報をエアラインに提供すること、ラダーペダル固着時の対処方法を通知及び改めることなど)をするように求めている。
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